3.マネージャー
印刷「あの人を超えられない」と思う必要はない
2021-02-26
「鬼滅の刃」に見る型の守破離
2020年に大ヒットした「鬼滅の刃」。私も遅まきながら、年末年始の休みに、アニメ・漫画ともに一通り読み終えた。ご多聞に漏れず、私もハマってしまった一人なのだが、思い返してみると、ストーリーの中には巧妙に、「型の守破離」の要素が盛り込まれていることに気付いた。作者の方がどこまで意識されていたのかは分からない。ただ、物語の転換点では、型の「破」か「離」があり、登場人物たちの成長が描かれていた。(ここからは、ややネタバレも含まれるので、まだ読んでいない方は要注意だが、)例えば、主人公の炭治郎は、「水の呼吸」という「型」をまずは習得する。そして、「全集中の呼吸」を習得することで、ベースのスピードやパワーを底上げし、型をレベルアップしていく。ここはまずは「型」を徹底的に習得するという「守」の段階だ。その後、「日の呼吸」と「水の呼吸」を組み合わせた技を繰り出す。これは、型の「破」。さらに、進むと自分に合った新たな「XXの呼吸」というのを編み出すわけだが、物語の中では、元々はじまりは「日の呼吸」だったが、その後それぞれの剣士に合った「呼吸」に派生し、炎や水、風、花といった呼吸の形が出来上がっていった、という解説がされていた。これはまさに、型の「離」だ。
「型の守破離」というのは元々武道の世界の言葉だったようだが、コンサルの世界でも、「型の守破離」という言葉はよく使うし、意識する。だからこそ、「鬼滅の刃」の「型の守破離」に妙に興味を抱いてしまったともいえる。
コンサルにも型の守破離が完成すると、独立する?
「型」というものを仕事の中で意識したのは、コンサルになってからかもしれない。
コンサルの仕事には、大きく分けて、型化して効率化する仕事と、ゼロから考えなければいけない仕事の2つがある。ただでさえ時間がないので、どのPJでも共通に必要なものや、同一テーマであれば共通で使える考え方などは、型化しておくことで効率化を図る。その分、自分たちの付加価値を出せる「ゼロから考えないといけない仕事」にリソースを割く。
さらに、コンサルの型というのは、どのファームに行っても大体同じものと、そのファーム特有の型があるとも思う。MAVISは、コーポレートディレクション(以下、CDI)グループの一員なのだが、最近CDIのメンバーとも仕事を一緒にすることが増えてきた。一緒にやっていて感じるのは、やはり、論点設計やリサーチ設計、Excelお作法などの型は、一定程度は共通しているということだ。一方で、PJで何に力点を置くかであったり、クライアントへの入り込み方、というのはファームの色が出る。
そしてさらに、そのファームの型から、個人の色が出てくる。
自分自身はコンサルになり立ての頃から、当社代表の田中と6-7年近く一緒に仕事をしているので、今の自分のやり方の多くは、“田中流”で構成されていると思う。そして数年前までは、「どうしたら、彼のように出来るのか」、といつまでも超えられない存在のように映っていた。ただ、個人の性格は田中と私で共通点もあれども、結構違う、と思っている。だからなのか、それぞれタイプの合うクライアントにも違いが出てきたと感じている。おそらく、自分も型の「破」くらいまではいっているのだと思う。そして、究極、自分の型が出来上がってくると、コンサルも独立するのかもしれない。だから、自分は自分らしい「型」を作っていけばいい、そう思えた。
「自分の型」ができたとしても、進化させ続けねばならない
M&Aでも、世の中には「M&A巧者」と呼ばれる会社がいる。世界の欧米系グローバル企業のやり方をベンチマークしたり、日本の大手企業のやり方を参考にしたりすることもある。ただ、他社事例は参考にしてもいいが、そのまま取り入れては失敗する。M&A戦略やPMIの本なども最近多く出ているので、そういったものを参考に組み合わせて、M&Aプロセスややり方をまとめるというのは、最初のステップとしては良いかもしれない。しかし、そのままではやはり使えない。自社の歴史や事業特性を紐解き、自分たちの特徴を把握し、M&Aプロセスに反映するなどして、自社に合うような「型」にしていく必要がある。
一方で、「自社の型」ができても慢心してもいけない。もし既存の型で成果が出ていないのであれば、その型を「破る」か、「離れる」か、しなければいけない時もある。本当に自分たちのやり方しかないのだろうか、と思ったときに、自社以外のやり方を見たり、第三者の意見を聞くのは、意味があると思う。
この変化が目まぐるしい世の中では、おそらく「型」が完成しきることはない。いつでも、自分にとっての“鬼”に立ち向かえるよう、臆することなく、「型」を進化させ続けていきたい。
MAVIS PARTNERS マネージャー 井上舞香