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パーパス起点のM&A

2021-12-03

パーパス起点のM&A

増えている会社のパーパス(存在意義)や長期ビジョンの再設定

足元オミクロン株の感染者も国内で見つかり始めているものの、ようやく緊急事態宣言も開け、少しずついろいろな会社に訪問させていただき、対面でディスカッションする機会も増えてきた。そのディスカッションの中で最近、必ずと言っていいほど出てくる話題が、パーパスや長期ビジョンの再設定である。先日とあるエネルギー業界の会社に訪問した際も、「2030年や2050年に向けて会社がどうあるべきか、まさに今検討しているところ」という話であったし、ある自動車部品メーカーでも「2030年のガソリン車販売禁止に向けて、自社がどうなっていくのか発信せざるを得ない」とおっしゃっていた。
新聞記事では、「米ボストン・コンサルティング・グループでは今年、パーパス策定に関する問い合わせが19年通年の2倍、日本に限れば5倍に急増している。」と報道されていた。弊社の肌感としてもパーパス策定やそれに紐づく長期ビジョンの設定、そしてそれを内外に発信していく企業のコミュニケーション戦略に関するお悩みが増えている印象であったが、世間的にもコンサルティングテーマとしてホットな領域であることを改めて認識した。
そもそもパーパスとは何なのか?という定義は様々であるが、ここではパーパス=WHY(なぜ社会に存在するのか)、ビジョン=WHEREどこを目指すのか、ミッション=WHAT(何を行うべきか)、バリュー・カルチャー=HOW(どのように実現するか)というよく言われる定義で話を進めていく。

パーパスを起点としたユニリーバのM&A

パーパスの設定に関してよく聞く悩みとして、「そもそもどう設定すればよいか?」ということもあるが、それよりも「設定した後にそれをどう事業と結び付けていくのか?パーパスやビジョンに基づいてどうM&Aを進めていけばいいのか?」という点についての悩みが深いように感じている。弊社が主催するポストM&A研究会での議論においても、「パーパスや長期ビジョンを実現するための手段としてM&Aを位置づけているものの、抽象的・情緒的な表現になってしまうパーパスやビジョンに基づいてどこまで具体的な経営判断が下せるか」という点に課題を感じている会社が多い様であった。一方で、パーパス起点で上手く事業開発出来ている企業もあり、例としてユニリーバのM&A戦略を取り上げてみたい。
ユニリーバは従来、グローバルに事業を展開している、一定程度の事業規模を持っている等をM&A対象企業の要件として定義していたが、2016年にはその要件に合致しないSeventh Generationというニッチな日用品メーカーを買収した。当時、従来のユニリーバのM&A戦略からは異質な案件として大きな話題となったが、ユニリーバのパーパスを見れば買収したこともうなずけるものであった。
ユニリーバは2010年からユニリーバ・サステナブル・リビング・プランを掲げ、創業者の「清潔を当たり前のものにする」という理念に倣って「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」というパーパスを掲げていた。一方で、Seventh Generationは「次の7世代のために、世界を健康で持続可能活公平な世界に変える」という理念を掲げていた。まさに、ユニリーバのパーパスとSeventh Generationが理想とする世界が一致したからこそのM&Aだったといえるだろう。

パーパス起点のM&Aや提携のメリットと留意点

世の中の潮流を踏まえれば、今後はユニリーバのようにパーパスを起点としたM&Aが増えていくだろう。さらに妄想すると、資本関係が無く、共通の理念だけでつながるような企業グループも出現するかもしれない。パーパスを起点として、共通のあるべき姿を共有することのメリットは、従来の親会社子会社と言った上下関係ではなく、“より良い世界を実現していく同士“という自律的な組織になっていくということではないだろうか。ユニリーバは2017年までに26のパーパス型ブランドを買収しているが、買われた側のどの企業も大企業の傘下になって経営が支配されたという雰囲気になっていないらしい。
一方で、先ほども触れたがどうしてもパーパスや長期ビジョンは文字にすると抽象的・情緒的な表現になりがちなので、同じようなビジョンを掲げていたが実は細かいところで異なっていて、共通のあるべき姿を共有できなかった、ということも起こりえるかもしれない。対外的に発信するメッセージとしてのパーパスやビジョンは抽象的だったとしても、社内ではしっかりと具体的にどういうことか落とし込んで理解することが重要ではないだろうか。

MAVIS PARTNERS マネージャー 渡邊悠太

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