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結婚とM&Aは似ている?類似点だけでなく相違点も考える

2023-02-10

結婚とM&Aは似ている?類似点だけでなく相違点も考える

M&Aとの馴れ初め

私は1月より、前職の新規事業コンサルタントという立場を変えて、MAVISに入社している。MAVISではM&A全般のコンサルティングを手掛けており、私も日々M&A業務に従事している。そもそも私がM&Aに興味を持ち始めたのは、起業家を志す友人にM&Aの魅力をしきりに語られたためだ。彼は起業したらM&Aを目指すと宣言していた。当時、私の中では、経営者は上場を目指すものという偏見を持っていたので、「M&Aって何だろう?」 と強烈に興味を惹かれた。
実際に調べ始めて見ると、難解な専門用語ばかりで難しく、なかなか頭に入ってこなかった。M&Aには、スタンドアローンバリューやポスト・マージャー・インテグレーション(PМI)等、初学者泣かせな専門用語が多い。また、M&Aは総合格闘技とも言われるほどに必要な知識が広いこともあり、会計や人事等の専門用語も登場し、なかなかにとっつきづらい。
悪戦苦闘する中で、M&Aのとある説明記事を読むと、M&Aの基本概念が結婚に例えられ、それぞれ説明されており、私の中で非常にしっくりきて理解が一気に進んだ。また、M&Aの成功のコツは、結婚を上手くいかせるコツと似ているとも書かれており、さくっとポイントも分かったようにも思う。これからM&Aを勉強したいという方には、「M&A 結婚」でググれば、私が読んだ記事が出てくるので、ぜひとも一読を勧めたい。
ただ、M&Aの仕事に関わり始めた今になって、改めて考えてみると、記事の内容に共感を覚えつつも、「違う点もあるのでは?」と思ったので、共通点と相違点をまとめてみる。

M&Aと結婚は似ているのか?

弊社の田中をはじめ、多くの識者がM&Aを語る際、M&Aと結婚の類似性に言及している。PwCや日本M&Aセンター等の著名企業の公式文書でも、結婚が引き合いに出されており、半ば決まり文句になっている。さらに、M&Aキャピタルパートナーズは、「いい夫婦の日」(11月22日)に向けて、M&A 経験のある既婚者を対象に、M&Aと結婚に関する意識調査まで行っている。調査結果によると、6割以上が似ていると回答しており、M&Aと結婚が似ているのは、共通認識となっているのかもしれない。
また、奈良県の老舗学習塾2社が合併した際は、世界初とされる企業結婚式が催された。奈良ホテルのチャペルで、両塾を象徴するキャラクター同士の挙式から、グループ社員全員が参加する披露宴を行っており、手のこりように驚かされる。このようなM&Aと結婚を紐づける事例は、あげればきりがないほどである。
では、具体的にはM&Aと結婚のどんな点が似ているのか?プロセスが似ている場合が多いのだと考えている。結婚は、目標と戦略を定めた上で、条件に合う相手を発掘・選定し、価値観や行動様式等をすり合わせる“マッチング・プロセス”だと言うのが個人的な持論である。M&Aは必ずしもそうではないが、同じプロセスを経ているケースは多い。そのため、M&A事例の多くが結婚と似ていると捉えられているのだと思う。マッチングを援助するアドバイザーや仲介業者がいる等、プレイヤーも似ている。また、直近のトレンドとして、インターネット経由で相手を探す“マッチングプラットフォーム”が台頭している点でも酷似しており、あまりの類似点の多さに驚かされるほどだ。

結婚との相違点からデューディリジェンスを再考する

M&Aと結婚の相違点を考えた際、M&Aのプロセスの中で、デューディリジェンスは少なくとも違うのではないかと考えている。その考えに至った理由は、M&Aと結婚では、デューディリジェンスにかかっている期間が異なるからだ。M&Aにおけるデューディリジェンス期間は、通常1~2か月以内に限られている。一方、結婚に至るまでの交際期間(M&Aで言えばデューディリジェンス)は、2015年の出生動向基本調査によると平均4.3年だとされており、M&Aと比べて非常に長いと言える。
上記の期間差があるため、結婚と比べるとM&Aのディーディリジェンスは短期プロジェクトだと言える。実際、タイトなスケジュールの中で、買い手企業は、外部の専門家を巻き込む等して、短期集中で議論を重ね、期待と懸念を検証している。これは、一つの正攻法ではあるものの、より時間をかけて結論を出したいという企業もいるのではないかと思っている。
そこで、仮に結婚のように長くデューディリジェンスをした場合、どのような点が変化するかを考えてみたい。その場合、分析により時間をかけるだけではなく、シナジー創出へ向けた実証実験やコラボレーション等、協業関係から始めてみることも可能になる。そうすれば、果たして本当にシナジーが生まれるのか等を検証できる。また、関係を築く中で、買い手と売り手の双方で、M&Aのメリットが肌感覚として感じられ、M&Aへ向けた機運が高まる等の副次的な効果もあるかもしれない。
今回、M&Aと結婚の類似点と相違点について考えることで、自分の中でも示唆が得られたように感じる。今後も、MAVISの一員として、クライアントのM&Aをサポートするにあたり、M&Aの理想形は何なのかゼロベースで考え続けたい。デューディリジェンスで言えば、「買うか?買わないか?」の単調な二元論ではなく、売り手側とまずは協業関係から始めることを提案する等、独自の提案ができるように研鑽を続けたい。

MAVIS PARTNERS アナリスト 水上 尊俊

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