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社会価値と事業価値の両立

2021-08-13

社会価値と事業価値の両立

ESGの取組と利益の拡大は両立するのか?

以前あるクライアントから、「当然ESG活動はやっているけど、社内ではそれが利益につながると認識されてはいない。どちらかというと社会的な要請によってどうしてもかかってしまうコストという認識」というような趣旨のお話を伺ったことがある。このコラムを読んでいただいている皆様の会社でも、同じような認識を持っている企業も多いのではないだろうか。
この話の背後には「ESG活動と企業の事業活動によってもたらされる利益は両立するのか?」という問いが隠されている。実はまだこの問いに対して、明確な統一見解はないらしい。マイケル・ポーターが2011年に提唱したCSVという概念では、企業の社会的価値と企業価値の両立が理論的に説明されてはいるものの、本当にそうなのか、という点を実証的に証明しているものは少ない。ESGに積極的な企業とそうではない企業の株価の動きを比較分析した研究はいくつかあるが、投資家の中でも意見は割れているらしい。実際に、ある運用会社の方にお話を伺ったところ「ESGがどれだけファンドのリターンに寄与するか、まだ不透明。最終的にはリターンの向上につながるのではないか、という仮説段階」という声や、「基本的に投資判断を財務情報に基づいて行っており、ESGは後から聞かれた際に説明できれば良いという認識」という声が聞かれた。
リターンにつながるか分からないけれどもアセットオーナーからの要請が強く、ESG取り組みに積極的な企業に投資せざるを得ないから、結果的にそういった企業にお金が集まってリターンが上がるようになりつつある、ということが投資家の認識であるらしい。

ESGと利益の両立を目指した企業の取り組み事例

一方で、SDGsが掲げられ、これまで以上に企業にESG活動が求められることは明白である。つまり、ESGと利益を両立させ、持続的に成長が出来る企業である、というメッセージを社内外に打ち出すことが重要になってくる。
先日、日経新聞に「明治HD、中計で独自指標 ESGと利益、両立模索」という記事が掲載されていた。ESGの取組強化と利益の拡大を両立させるために、“明治ROESG“という独自指標を設定したというニュースである。実はこうした動きを見せている企業は以前からたくさんある。
例えばエーザイは、障碍者雇用率や、女性管理職比率などのESG取組のKPIを100項目弱設定し、10年の経年データをもとにROEやPBRとの相関関係を分析し、企業価値の向上に相関のあるESG取組を特定した。これによって、定量的に「ESG活動に取り組めばROEが上がる」と言い切ったのである。
味の素も同じように、企業価値と非財務情報の関係性や、中長期ビジョンや経済価値との関係性を独自に定義・定量化を行い、ASV経営という独自の概念を打ち出している。
上記のような企業はいずれも、「このESG活動は、わが社の利益や企業価値を上げることが出来る。だからこの取り組みをしているのだ」という一貫性を主張している点で興味深い事例と言える。

求められる企業の能動的な態度

おそらく、今後上記の企業のように、自分たちの事業から生み出される企業価値と、ESG活動から生み出される社会価値の一致や両立を掲げる企業は増えていくのではないだろうか。企業側が各ステークホルダーに対して「自分たちはこういう考えのもとこの活動に取り組んでいる、だから独自の指標を設定してモニタリングしている」というようなその企業の“思想”や“経営理念”を伝えることがこれまで以上に重要になっている。
ただし、こうしたメッセージを企業として打ち出すためには様々な課題があるのもまた事実である。自社の存在意義について徹底的に議論し社内で共通認識を取ることも重要であるし、ESG取組を定量化するために様々な情報を管理・分析できるガバナンス体制が求められる。皆様の企業ではESGと利益の両立を社内外に訴求するために、どこまで能動的に取り組まれているだろうか。

MAVIS PARTNERS マネージャー 渡邊悠太

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