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2022年のM&A展望

2021-12-24

2022年のM&A展望

2021年は戦略的売却が多かった

今年も残すところあと1週間となった。この時期になると必ず、2021年はどういう年だったのかという振り返りや、2022年はどういう年になるのか、という展望が発表されることは皆さま御周知のとおりである。そこで、今回はこのコラムで、簡単に2021年度のM&Aについて振り返ってみたい。
終わってみなければ正確な数字はわからないが、2021年のM&A件数は、過去最高になる見通しらしい。少し前の報道になるが、レコフデータベースによれば、1~8月までの件数が2,749件で、1985年の統計開始以来過去最高だそうだ。コロナの影響もあり、昨年は前年比約1割減の3,730件に終わったが、コロナ後の成長を見据える企業の投資活動が活発化していると言えよう。全体としては、デジタルシフトと絡んだ企業買収や、コロナ禍で苦境に陥った宿泊・飲食と言った分野の再編の動きが多いようだが、大企業のM&Aに目を向けてみると、今年は“戦略的売却”が多かった年と言えるのではないだろうか。大きいところでは日立の上場子会社日立金属のファンド連合への売却、資生堂のパーソナルケア事業の欧州系投資ファンドへの売却を筆頭に、昭和電工のアルミ事業など6事業売却、ブリヂストンの米国建材会社のスイス企業への売却、武田薬品工業の2型糖尿病治療薬事業の売却、JSRのタイヤ素材エラストマー事業の売却、AGCの北米建築用ガラス事業の売却、パナソニックの船舶衛星事業撤退などなど挙げればきりがない。つい昨日は東急ハンズのカインズへの売却も報道されていた。大きなM&Aに絞れば、なんと4件に1件は売却案件である、という記事もあった。新型コロナによる事業環境の変化を受け、国内外で不採算事業や非中核事業の切り離しを積極的に進めた会社が多かったのであろう。

2022年も売却案件は増える?

コロナで強まった非中核事業の売却と、中核事業へリソースを集中する流れは2022年も続きそうだ。中期経営計画において事業の選択と集中とか、不採算事業の撤退などを明確に謳っている企業も増えてきている印象を持っている。また、既にオリックスの弥生売却、ブリヂストンの防振ゴム事業の中国企業への売却、オリンパスは祖業である顕微鏡などの科学事業の分社化と第三者への売却などは報道済みである。おそらくこういった案件は今後も増えるだろうし、上場企業による上場子会社の売却案件なども増えていくだろう。非中核事業を売却し、選択と集中を進めるということは株主の要請でもあるし、コーポレートガバナンスが強化されて以降、社外取締役の役割としても事業売却を後押しすることが期待されている。少し前になるが、2017年度に整備された「スピンオフ税制」も子会社や事業の分離を進め、中核事業に特化させる狙いがあり、整備された当初はこういった制度も活用されていなかったが、事業売却がしやすいような環境整備は進められている。今後はこれまで以上に、企業を成長させるためのオプションとして事業・企業買収ではなく、売却という戦略をとることが当たり前になっていくだろう。

自社にとってのノンコア事業とは何か?

実際に、様々な企業に訪問してディスカッションしていると、「コア事業とノンコア事業を見極めてノンコア事業は売却も視野に入れています」というようなお話を伺うことが多くなった印象を持っている。このコラムを読んでいる皆様の会社でも同じかもしれない。
さて、ここで論点となるのが、「自社にとってのノンコア事業とは何か?」というものであるが、多くの企業では「収益性」を重要な判断軸としているのではないだろうか。弊社のアプローチとしても収益性を加味したグループへの貢献と、市場の魅力度などの事業の有望性の2軸で評価し、グループの他事業へも貢献していなければ事業としても市場の魅力が低いものはノンコア事業という見極め方をご紹介することがある。ただし、今後は収益性よりも「自社の存在意義、パーパスと照らしたときにコア事業かノンコア事業か」という見極め方が重要になってくるかもしれない。収益的に儲からないからではなく、自社の存在意義と異なるから事業を売却するという判断の下で行われる事業売却が増えるのが2022年かもしれない。皆様の会社では、どのような判断基準でコア・ノンコア事業を見極めているだろうか。パーパスや長期ビジョンと整合性が取れているだろうか。このような観点で既存事業を見ていくと新たな気づきがあるかもしれない。

MAVIS PARTNERS マネージャー 渡邊悠太

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