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それは因果関係か?それとも相関関係か?

2021-11-12

それは因果関係か?それとも相関関係か?

アカデミックの世界でも因果と相関を見誤ることがある

ある2つの変数が因果関係か相関関係か、自信をもって見分けることが出来るだろうか?自分は出来る、と自信を持って答えられる人もいるかもしれないが、実は因果と相関の見分けはそう単純ではない。一例をご紹介する。
「従業員の最低賃金を引き上げた場合、企業は人件費の負担増を嫌気して雇用を減らす」というロジックは正しいだろうか?つまり、「最低賃金の引き上げ」と「雇用」の間に因果関係はあるだろうか?従来“正しい”と思われていたこの関係に対し、“かならずしも正しくない”と結論付けたのは、2021年度のノーベル経済学賞を受賞したデビッド・カード、ヨシュア・アングリスト、グイド・インベンスの3名である。この結果は、最低賃金引き上げは、労働者は喜ぶ半面、企業が雇用に消極的になり失業率が上がるため社会的にはあまり良い政策ではない、という政策判断が間違いとなりえることを示唆している。
因果関係と相関関係を見極める方法論は「因果推論」と呼ばれているが、上記の例のように、時に専門家でさえ因果と相関を誤って認識していることがある。上記の例は国の政策決定において誤った判断をしてしまいかねないという例だが、企業においても同じだろう。つまり、相関でしかないものを因果関係だと思い込んでしまうと誤った経営判断につながってしまう。そこで本日のコラムでは因果関係を確認するためのポイントをご紹介する。

因果関係を確認するための3つのチェックポイント

2つの変数(例えば、先ほどの「最低賃金の引き上げと雇用」や、「広告出稿量と商品売上」等)の関係が因果なのか相関なのかを確認するためには、一般的には次の3つのことを疑ってみることが大事らしい。1つ目のチェックポイントは、「ただの偶然にすぎないのではないか」である。例えば、ある企業で「広告の出稿量を増やせば増やすほど、株式を保有している機関投資家の数や平均保有期間が短くなっている」ように見えたとしても、「広告の出稿量を増やした時期が、たまたま市場全体の地合いが悪化していて機関投資家が手放しただけ」かもしれない。2つ目のチェックポイントは、「第3の変数が存在していないか」。第3の変数を専門的には「交絡因子」と呼ぶ。例えば、「体力がある子供は学力が高い」という関係があったとしても、それは「親の教育熱心さ」という別の変数(交絡因子)が関わっていて、「教育熱心な親は子供にスポーツを習わせ食事にも気を使い、同時に勉強するようにも仕向けるため体力と学力が付きやすい」だけかもしれない。そして最後3つ目は、「逆の因果関係が存在していないか」である。例えば「仕事のパフォーマンスが高い人は、自発的に行動している」という傾向があったとする。これは、「仕事のパフォーマンスが高いから自発的に行動出来ている」のではなく、「自発的に行動するようなマインドセットの持ち主は仕事でも結果を残しやすい」という逆の因果と捉える方が自然であろう。

3つのチェックポイントの確認方法

上記3つのチェックポイントを確認する方法は具体的にどのような手法があるのだろうか。細かく言えば様々な手法が存在しているが、大まかに言うと「仮にXXしていなかったらどうなっていたか」という反事実を構築し、現実と比較するのだ。もちろん、実際に同一の店舗で広告の有無以外全くの同条件で比較することは出来ないので、反事実に近いデータと比較することになる。
例えば、「広告を打ったことによって前年同月比で30%売上が増加した」という全国チェーンの外食企業があったとする。その売り上げの伸びが広告効果であることを検証するためには、広告を出した店舗とマーケット環境・売上規模・店舗サイズなどが類似している広告を出していない店舗を比較するというやり方だ。実際には、「本当にその店舗が比較可能と言えるのか?」「比較可能だったとしてどう比較するのか?」といった問いも重要なのだが、それはまたの機会とさせていただく。
今後、皆様がある意思決定に対して因果関係だと思って決断するのか、相関関係だと認識したうえで判断するのか、同じ判断をするとしても、社内外のステークホルダーに対して説得力のある説明ができるのではないだろうか。その意味でも因果と相関の見極めを意識することは重要だろう。

MAVIS PARTNERS マネージャー 渡邊悠太

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