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企業風土変革が先か、事業ポートフォリオ変革が先か

2020-11-13

象徴的事業の売却が持つ意味

2020年8月、武田薬品は「アリナミン」や「ベンザブロック」など国内大衆薬品事業を担う武田コンシューマーヘルスケア(TCHC)をPEファンドのBlackstoneへ売却することを発表した。同社発表によると、国内大衆薬品事業は、武田薬品としては非中核事業と位置付けられ、十分な投資をできないことから、TCHCの将来の成長のために売却に踏み切ったという。
一方、シャイアー買収により膨らんだ有利子負債の圧縮が主な目的と推察する見方もあれば、武田薬品の象徴的事業であった「アリナミン」事業売却により、グローバル医療用医薬品会社を目指すことを鮮明にし、組織風土を変えようという意図を持つのではないか、という憶測もある。
「アリナミン」は1954年に戦後の日本の栄養不足を解消する栄養ドリンクとして発売されて以来、武田薬品のトップ商品であった。確かに、武田の企業文化を作ってきたような事業の売却は、内部の人間にとっては、相応の衝撃が走ったのではないだろうか。

変えるべきは、組織風土ではなく行動パターン

我々は仕事上、「組織風土変革」のようなテーマでご依頼を頂くこともよくある。その中でつくづく感じるのは、「組織風土」は容易に変えられるものではない、ということだ。組織風土を紐解くと、これまでの業界環境、歴史、ビジネスモデルから、組織的特徴が積み重なり、形成されている。これを我々は、「組織風土形成メカニズム」と呼んでいる。
例えば、何等かの規制などの参入障壁によって業界的に環境変化が少ない「業界特性」があったとする。すると、「組織的特徴」として、「計画に沿って着実に業務を遂行することが重要と意識が強い」⇒「ミスがなく正確な仕事が評価される」という特徴が形作られていく。そしてその「組織的特徴」から、「チャレンジしても評価されず、失敗すると評価が下がる」という「組織風土」が形成されていく。このように脈々と築き上げられた「組織風土」は、人の価値観と同様、ある程度出来上がってしまう一朝一夕に変えられるものではない。
では、何を変えるべきなのか。それは、「行動パターン」だ。先ほどの具体例に当てはめると、「チャレンジしても評価されず、失敗すると評価が下がる」という「組織風土」の中にいる人々の行動パターンはどうなるだろうか。
例えば、「リスクや手間を回避する」、「顧客ではなく、社内を気にする」、といった行動パターンが生まれるのではないだろうか。
このように自社の戦略を阻害する「行動パターン」を特定するところまでいければ、あとはこの「行動パターン」をどのような状態にしたいのか、そしてどのようにして変えるのか、を考えればよい。

ジョン・P・コッターの企業文化変革ステップ

次の論点となるのは、いかに人々の「行動パターン」を変えていくのか、ということだ。そこで参考とするのは、ジョン・P・コッターが提唱する企業文化変革の8段階のプロセスだ。我々はそれをシンプル化・カスタマイズし、4つのステップに分け、①危機意識の醸成と改革の意義・目的の明確化、②シグナリング、③中核集団の組成とエンパワメント、④変化の定着、としている。以下にてそれぞれのステップを簡単に解説する。
①ではまず、事業環境の変化によるマーケットシェアや業績悪化などを踏まえ、変革の必要性を社員に納得させる必要がある。ここでは、経営トップがいかに社員に対してメッセージを発信するかが重要となってくる。そして、②では、人事や予算配分など目に見える形で変化を示し、会社が本気度で変革を追求していることを示すことを意図している。さらに、③にて、変革における実質的な役割を果たす「中核集団」として、中堅から若手を起用し、必要な権限・教育を施し、組織内部からの変革を促す。④では、変化を定着させるために、望ましい企業文化を体現する業務の進め方やフレームワークを提供することで、日常的に新たな行動パターンが実践される環境を作り出す。
私見ではあるが、①だけで動く人間はごく少数だと思う。②のシグナリングから、自分たちの仕事に直接の変化が生じてから、行動を変え始める人が殆どなのではないだろうか。そして、シグナリングにも程度の差があるわけだが、影響度の高いシグナリングとして、「象徴的な事業の売却」は作用すると考えられる。
事業売却自体は、事業ポートフォリオ最適化の文脈の中で検討されるべきではあるが、副次的効果として、社員の行動パターンを変えるきっかけとして活用することも有用なのではなかろうか。

MAVIS PARTNERS マネージャー 井上舞香

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