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ファクトは嘘をつかないが、ファクトに嘘をつくのは簡単

2020-11-06

ファクトに対して、自分にとって都合の良い解釈をしがち

我々は職業柄、「今後自社が成長していくためには、XXという領域に進出するのが良いと考えているが、それを客観的に評価してほしい」や「XXという会社を買収したいと考えているが、買収是非について再度検討してほしい」といった依頼を受け、戦略策定やM&A検討のご支援をさせていただく機会が多い。
上記のような評価や検討を行っていく上で、市場調査や競合分析のためにリサーチを行っていくことは言うまでもないが、自分も含め、自分にとって都合の良い方向でリサーチ結果を解釈してしまうことが多々あるように感じる。

ファクトへの向き合い方はコンサルタントとしての価値の出し方にも通じると思う

クライアントにとって、コンサルタントは第三者の目という意味合いが大きいのは言うまでもないが、私自身どうしてもクライアントの意見に寄り添いすぎて、思考が停止してしまいそうな瞬間がある。
例えば、「XXという会社は、今後の自社の成長のためにも買うべきだと思うんだよ」とクライアントに言われてしまうと、どうしてもそのクライアントの意見をサポートするためのファクトに目が行きがちになる。しかしそれでは、真にクライアントのためにはならないし、ただのご意見おまとめコンサルになってしまう。こういったことで、上司から指摘を受け、コンサルタントとしての価値の出し方を考え直させられた経験は一度や二度ではない。

「コロナの影響で地方に人が戻る」は嘘

先日、新聞各社が「東京圏、初の人口流出」と報じた。この報道を受けて、インターネット上では、「これからは東京から地方への人の移動も加速するぞ」といったような意見が散見された。
私は出身が新潟県で、こういった類のニュースに対しては敏感なのだが、本件に関しては「本当にそうなのか?」と疑問に思った。
たしかに東京圏への転入数が転出数を上回ったのは事実だが、それをもって地方に人が戻っているという解釈をするのは早計ではないだろうか。実際に、総務省が7月に出した住民基本台帳の都道府県別人口移動概況をみると、たしかに全ての都道府県において人口の流出数は、前年同月比で減っているが、3つの道県を除く他全ての都府県で人口の流入数も減っている。つまり、単に人が移動しなくなったというだけで、地方に流入しているわけでは無いのだ。
上記のような希望的観測をしていたのは、主に従前から地方活性化に力を注いできた政治家や起業家だった。自分たちに都合の良い方向にファクトを解釈してしまっている典型的な例のような感じがした。

初期仮説を否定することを無意識に避けているのでは?

ではなぜ人は自分にとって都合の良い解釈をしてしまうのか?それは、恐らく他者や自分が信じてきたこと(初期仮説)を否定することを無意識に避けてしまっているからではないかと思う。
初期の仮説を否定するということは、また一から仮説を構築し、リサーチをしてそれを検証するという作業をやり直すだけではなく、場合によっては、その初期仮説の否定によって、当初やりたかったことができなくなってしまう可能性もあるからだ。
それはとても手間がかかることだと思うし、仮に他者が立てた仮説を検証していた場合には、その人の考えを否定してしまいかねないので、表現の仕方に難儀することも想定される。

買いありきのM&A防止のためにも、ファクトに嘘をついてはいけない

M&Aでは特に、ファクトに対して客観的に向き合うことが重要になるのではないだろうか。
あらゆる意思決定の中でも、特に大きな金額の動くものの代表例としてM&Aは挙げられると思うが、ファクトの解釈を誤ればその後の全ての計画が崩れることになり、大きな損失を被ることになりかねない。
様々な理由で、社内において買いありきでM&Aの話が進んでしまうような事例は少なくないが、そんなときに客観的な視点を持ってファクトから真実をあぶり出し、いかに勇気を持って正しい買収是非の判断が出来るかが求められる。
M&Aを支援する立場としても、ファクトに嘘をつかない姿勢を肝に銘じて、今後もクライアントの力になりたいと思った。

MAVIS PARTNERS アナリスト 井田倫宏

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