2.アソシエイト
印刷加齢による脳の変化との上手な付き合い方
2025-02-07
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知能は70歳まで伸びる
「大人になると、脳の神経細胞はどんどん失われていって、能力が向上しなくなっていく」というような話を聞いたことはないだろうか。私自身はこういった話を何度か聞いたことがあるし、自分がもっと若かった頃と今の学習能力を比較しても、納得する側面があった。
しかし、近年の研究では、そういった過去の言説を否定するようなことが分かってきたらしい。
今年1月17日の日経新聞に「知能は70歳まで伸びる 脳の癖を知り3原則で「自分超え」」という記事があった。その記事の中で、”情報処理能力といった新しい状況や課題に素早く適応する「流動性知能」は50代中頃まで、知識や言語能力といった経験や学習によって獲得する「結晶性知能」は70歳頃まで伸び続ける”という国立長寿医療研究センターの研究結果が紹介されている。
これは、経験や学習によって脳の構造や機能が変化する能力である「可塑性」に起因するものということだが、興味深かったので、色々と論文や記事を読み漁っていたところ、一部を除いて、脳の多くの部位が生涯にわたって「可塑性」を持ち、あらゆる機能向上に寄与しているということらしい。
歳をとっても向上しやすい機能と衰えやすい機能
歳をとっても脳の「可塑性」によって様々な機能の向上が期待できるといっても、機能によってその度合は異なるという。
例えば、記憶や学習において重要な役割を担う海馬では、成人後も新たな神経細胞が生まれることが分かっており、前述の日経新聞の記事でも触れられている通り知識や言語能力というのは歳をとっても身につきやすい(海馬以外の脳の部位では、成人後に新たな神経細胞は生まれず、神経細胞同士を結ぶシナプスが新たに組み変わることで脳の機能を維持・向上しているというのが現状有力な説らしい)。
一方で、例えば、他者への共感などに深く関与する島皮質という部位(大脳皮質の一部)に関しては、加齢によって可塑性の低下が進みやすいようで、他者の感情認識や新奇な感性への適応力の衰えの原因になるという。
脳の「可塑性」を理由にして、いつまでもスキルアップの意欲を失わないことは大事だと思いつつも、どの能力を向上させるべきかの濃淡については、部位ごとの「可塑性」の度合いを踏まえて考えても良いのかもしれない。
加齢はスキルアップを諦める理由にはならないが、スキルアップの方向性を変える理由にはなる
仕事に限らず、日常生活を送っていると、誰しも得意なことと不得意なことが見えてくると思う。
自分の場合、数字を読み解くのはたぶん得意な方だと思うし、得た情報を他人に伝達するための文章力や構造化の力は仕事を通じて鍛えられてきたけど、対峙している相手が裏で何を思っているのか・感じているのか?という相手の思考を読み解くことは、もちろん入社当初よりはできるようになってきたものの、苦戦することが多い。
そんな中で、上記の「歳をとっても向上しやすい機能と衰えやすい機能」で述べた、”他者の感情認識や新奇な感性への適応力は大人になるとなかなか向上しにくい”ということを踏まえれば、実は相手の思考を読み解くという部分に関しては、この仕事をやっていく上で必要不可欠な能力ではあるものの、身につかないからといって必死になって習得を目指すべきものでもないのかもしれない(もちろん努力はするが)。
では、どうやって足りないかつ向上が難しい機能を補完するか。一つの方法として他者を”使う”というのがあると思う。どんな仕事においても、自分だけでなんとかしなくてはいけないという場面はそう多くないはずなので、同じ組織の他メンバーや、場合によっては外部を活用しながら、目的を達成するというのが、30を過ぎた自分に課された大きな課題なのだろうか。
MAVIS PARTNERS アソシエイト 井田倫宏