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その数値計画は誰の意思が込められたものか

2022-09-16

その数値計画は誰の意思が込められたものか

数値計画は恣意性の固まり

先日、国立社会保障・人口問題研究所が作成したグラフが、ネット上で話題になっていた。政府の出生率予測が、これまでどのように変遷してきたかを示したものだ。そのグラフによると、1981年時点では、出生率は2.1程度で安定して推移すると予測されていたが、1992年になると1.8程度に下方修正、2002年には1.4程度まで下方修正されているとのこと(すべて同じ期間の出生率の予測)。ネット上では、政府の少子化対策に対する不満とともに、「政府の予測なんて希望的観測に過ぎない」というような意見も見られた。
企業においても、将来の数値計画を作成する場面は多い。個人的には、最近、IPOに向けた事業計画の作成や、新たに検討を進めている施策の財務インパクト試算を依頼されることが多いのだが、どんな数値計画にも、必ず誰かの意思が入っているということを改めて感じている。

変数部分を固定した時点で、必ず作成者の意思が入る

例えば、とある商品Aの売上を予測する際には、販売数✕単価に分解して、さらに販売数の部分を販売チャネル別に分解して・・・と、確からしいロジックは組み立てるのだが、必ずどこかの因数が変数になって、その変数部分に何か値を代入して、固定した時点でその人の意思が入ってしまう。例えば、購入者数の年成長率を5%とするか、10%とするかというようなものである。
商品の原価や、ターゲット層の人口など、ほとんど意思を介入させる余地が無いような因数もあれば、個人や会社の意思によってどうとでも操作できる因数もある。どんなに完璧にロジックを組み立てたとしても、因数分解の仮定で、必ず”必然性の無い”変数の部分が現れるのである。
これまでも、多くの案件で、数値計画の作成を行ってきたが、必ずどこかのタイミングで、「この変数をどう設定しますか?」というクライアント側の意思を確認する場面が訪れる。そのとき初めて、数値計画が恣意的なものになる。

大事なのは誰の意思が入った数値なのか

「恣意的」と書くと、あたかも悪いことのように聞こえてしまうが、良い悪いとかではなく、それが当たり前のことだと思っている。人間が作っている数字である以上、作った人によって数値が変わるのは当たり前である。
問題は、誰の意思が入った数字を作るのか?ということだと思っている。
例えば、会社の中期経営計画を作るときは、誰の意思の入った数値にすべきだろうか。中期経営計画の持つ役割を考えると、おそらく、その会社の代表始め役員の意思が入った数値にすべきだろう。一方で、実際の計画作成時に、手を動かしてシミュレーション等をしているのは、役員ではない現場社員であるが、そのような現場社員の意思が少しでも入ってしまうのは避けないといけない。
そんなのは当たり前と思うかもしれないが、意思決定者に対して意思を問う際のやり方に気をつけないと、知らぬ間に現場社員の意思が入ってしまう可能性がある。

意思を問う際に気をつけるべきこと

よく見られるやり方として、数値計画を松竹梅の3パターンに分けて行い、どのケースをベースケースとするか?と意思決定者に問うというものがある。パターン分けをして選んでもらっているので、一見すると意思決定者の意思が反映されているように思えるが、実はパターン分けの時点で、現場社員の意思が入ってしまっていることもあるように思う。
多くの場合、松竹梅のように1つの軸で3パターンなどとシンプルに場合分けすることはできない。実際の事業においては、”必然性の無い”因数=変数が、1つではなく複数あり、その組み合わせによって計画数値が決まる。それを無視して、松竹梅で単純化している時点で、パターンに恣意性が生まれているのである。
「数値計画を左右する重要な変数は何か?」「それら変数の組み合わせによって、結果数値がどのように変動するのか?」という2点が、主に考えるべきことだろうか。往々にして、変数の組み合わせは、上記の松竹梅と違い、非常に多くのパターンが出てくるため、議論には時間を要する。
我々コンサルタントも、意思決定者ではなく、それをサポートする立場である以上、これからも上記のような”提示の仕方”には気を遣っていきたい。

MAVIS PARTNERS アソシエイト 井田倫宏

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