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魅力度か実現性か、優先すべきはどちら?

2022-04-01

魅力度か実現性か、優先すべきはどちら?

シナジー再創出に向けたセカンドPMI:とある製造業のケース

以前、とある製造業のクライアントに対し、子会社とのシナジー再創出のご支援をさせていただいた時のことである。そのクライアントは数年前に、新規顧客の獲得およびサービス領域の拡大を目的に隣接業界の企業を買収したのだが、数年たっても期待していたシナジーがなかなか実現されないことに悩みを感じていた。もちろん、買収直後からシナジー創出に向けて、親会社・子会社間での定期的な顧客情報の共有や、共同提案などを行っていたのだが、仕事の進め方や使う言葉の微妙な差異、企業文化の違いなどから現場レベルであまり連携が進まなかった。それでも、買収した企業は単独で売上を伸ばしていたため、シナジーが創出されなくとも親会社経営陣はあまり問題視していなかった。ところが市場環境の変化に伴い、子会社の業績が悪化し始め、いよいよ親会社としてテコ入れをしなければ、という危機感から弊社にご相談をいただいた。その企業では、「なぜシナジーが生まれないのか?」という原因の特定よりも、「そもそも親会社と子会社で協業することでどんなビジネスを展開できるのか?」といった戦略の具体化が課題であったため、シナジー再創出というテーマでご支援をさせていただいた。

親会社・子会社交えた議論の際に起こったこと

子会社の買収から数年たっていたため、親会社・子会社の内部環境は大きく変わっていた。そこで、まずは親会社・子会社両社のプロジェクトメンバーが一堂に会し、両社の主要顧客や商品・サービス、有している技術ノウハウ、保有アセット等を洗い出した。その上で、「親会社のこの顧客に対し、子会社のこの商品サービスを提供できるのではないか」とか「親会社のこの商品は、子会社のこの技術でさらに付加価値を高められるのではないか」といった議論をしていたのだが、その際、「そんなことできるわけがない」とか「その顧客は特殊だから現実的ではない」といった実現性を盾に反論される方がおり、議論を進めるのに苦労したことがある。
もちろん、実現可能性を検討することは大事だ。しかし、最初から実現可能性ばかり気にしてしまうと、新しい発想が出てきづらく、「みんなで集まって議論したけど結局普通の意見しか出てこなかった」という事態に陥りやすい。おそらく皆様も同じような経験はあるはずだ。業界の常識やこれまでの経験に引っ張られると、「こんなことできるはずがない」と魅力的な案を無意識に除外してしまいやすい。

検討の順番は魅力度→実現可能性

だからこそ、戦略やシナジーの初期検討においては、意識的に実現可能性のことは考えるべきではない。何より、実現可能性の話をしだすと大抵「できない」「できない」ばかりになって、会議室が重苦しくなる。「こんなことできたら面白い」とか「こんなこと出来たら売上が倍増する」とか魅力的な話をしている方が、議論が活発になり、協業に向けて気持ちも前向きになりやすい。
この、「魅力的な案を出してから実現可能性を考える」という思考方法はM&Aにおいても同様だ。例えば、自社の戦略に適したターゲット企業に対して能動的にアプローチする「仕掛け型M&A」において、ターゲット企業を選定する際に「株を売ってくれそうな会社」とか「交渉に応じてくれそうな会社」といった実現可能性ばかりに気を取られると「魅力的な会社」を選択肢から排除してしまう可能性がある。まずは魅力的な会社を選んでから、実現可能性を検討して買収に向けた課題を明確にし、「どうすれば実現可能性が上がるのか」を議論していった方がはるかに建設的だ。
「魅力度→実現可能性」という検討順序は他の場合にも有効だ。例えば、営業担当が「この顧客と取引が出来たら大きな案件になるだろうが、どうせ無理」と考えてしまうと「話を聞いてくれそうな顧客」にしか目が向かなくなる。仕事に限らず、恋愛でも「あの子と付き合えたら毎日楽しいだろうけど、ライバルが多いから絶対無理・・」なんて考えると人生がつまらなくなる。格言にもあるだろう、「出来るのか出来ないのか、ではなく、やるのかやらないのかが全て」と。それと同じだ。「出来るのか出来ないのか、ではなく、やりたいのかやりたくないのかが全てだ」

MAVIS PARTNERS マネージャー 渡邊悠太

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