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他人の話を鵜呑みにせずに正しい情報で物事を見極める

2021-06-18

他人の話を鵜呑みにせずに正しい情報で物事を見極める

基本的に他人の話は信用してはいけない

私は休日に映画を観て過ごすことが多いのだが、ある程度レンタルビデオショップでめぼしい作品を観終わってしまうと、次第に自分の力だけで面白そうな作品を探すことに苦労してくる。そこで知人や映画評論サイト等から情報を集めて、評価の高い作品を観ることもあるのだが、それでも”ハズレ”の作品を引いてしまうことは少なくない。
仕事をしているときにも同じような経験をすることがある。我々の仕事では、しばしば市場や競合に関するリサーチを行うことがあるが、新聞や業界雑誌の記事、ネット上に落ちているインタビュー記事等の所謂2次情報は、クライアントにとっても入手することが容易なため、さらに踏み込んだ情報を得るために、業界に属する企業のIR担当者等にヒアリングすることが多い。プレイヤーの生の声であるため、市場・競合調査から示唆を出す際の重要なインプットになるのだが、それらの情報の中には”ハズレ”情報(誤った示唆を導いてしまうような情報)も少なくない。

他人の話には必ず主観が入る

おすすめの映画を他人に聞く際、自分と他人では過ごしてきた環境や映画に求める要素など、何もかもが異なるため、他人の意見を鵜呑みにできないことは言うまでもない。そしてこれは、市場・競合調査を行う際にも同じことが言えると思っている。
ある特定の業界に対する認識(例えばXX業界のXX分野は今後伸びていくのか?等)を聞いても、その業界に属するA社とB社が同じ見解を持っているとは限らない。また、A社とB社が同じ見解を持っていたとしても、それが本当に正しい情報とは限らない。その意見には必ず、各社の置かれている状況や立場が影響しているからである。
例えば、ハイブリッド自動車に力を入れている自動車メーカーのIR担当者に対して、個人投資家の立場から「今後、ハイブリッド自動車の市場が大幅に拡大することは考えにくく、ガソリン車から電気自動車へのダイレクトな転換が起こるのではないか?」と聞いても、おそらく中立的な回答は得られない。

IR担当者の話を鵜呑みにして誤った認識をしていた

以前私が関わっていたプロジェクトで、印刷関連業界に関する市場環境のリサーチを行っていたときのことである。
我々プロジェクトメンバーは、その印刷関連業界の中でもある特定の領域に着目し、商品Aの単価は今後伸びていくのかを調査すべく、複数の業界プレイヤーのIR担当者に電話でヒアリングを行った。
電話ヒアリングでは、それぞれのIR担当者が非常に丁寧に答えてくださったおかげで、非常に沢山の業界に関する情報を得ることができたし、「商品Aの単価は今後伸びていくのか?」という問いに関しては、「おそらく今後伸びていくだろう」という仮説を立てることができた。しかし、その後更に調査を進めていくと、その仮説は誤りだということが分かってきた。他の情報ソースから得た商品Aのこれまでの単価推移や、他の業界識者に対するヒアリング結果から、「商品Aの単価は伸びにくい」という方が辻褄が合うと判明したのである。

複数アプローチからの検証で信頼性を担保することが重要

どうしても、業界に属するプレイヤーのIR担当者が言っていることは、ファクトだと捉えてしまいがちだが、実はそんなに信頼度は高くないと思ったほうが良いと再認識した。上記の印刷関連業界の例であれば、IR担当者の話を聞いたプレイヤーはどれも商品Aに対して今後も力を入れていこうとしており、個人投資家として「商品Aの単価は今後も伸びていくのか?」と聞かれれば、「伸びていく」と答えるのは当然である。
リサーチをする際に、特定の情報ソースから得られた情報を鵜呑みにせずに、他の情報ソースで検証を行うことは基本中の基本だとは思うが、それは業界に詳しい人の意見に関しても言えることなのである。
最も客観的なファクトである数値で裏付けを取れればベストであるが、それができないときには、例えば、どの企業にも属さない業界識者(業界トッププレイヤーに過去属していた方等)にインタビューをするなど、検証をする方法はいくつかあると考えられる。

MAVIS PARTNERS アナリスト 井田倫宏

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