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好調時こそが、収益源の「一本足打法」の見直しのチャンス

2021-01-29

好調時こそが、収益源の「一本足打法」の見直しのチャンス

好調時には、一本足打法に対する危機感を抱きにくい

「一本足打法」という言葉は、今やビジネスシーンで使用される場面が多い。元々は野球用語で、打者が投球に合わせて投手側の足を上げ、残りの足だけで珠を待つ打法の呼称であり、その片足だけの立ち姿から、別名「フラミンゴ打法」とも呼ばれる。(元読売巨人軍、世界の本塁打王こと王貞治の打撃フォームを形容して、世に広く知れ渡ったのではないか。)転じて、ビジネスシーンでは、企業経営において特定の事業や製品が、売上高や利益のほとんどを稼ぎ出している状況を表現する際に使用される。例えば、「xx事業一本足打法」といった表現は、どちらかというとネガティブな意味合いで、プレゼンテーション資料やビジネス紙で使用される。
収益源における一本足打法の弊害は、一つの事業に対する依存度が高いため、仮に環境の変化で事業が立ち行かなくなったとしても、簡単には他の事業で収益を賄うことができないことだ。例えば、コロナ禍といった事業環境の急速な変化が起こった際、影響を受けやすい事業への依存度が高かった場合、別の事業が収益の柱として育っていない限り手遅れとなってしまう。また、少子高齢化や国内市場の飽和といった、既に確度が高く予想されている中長期的なマクロ環境の変化についても、既存事業が好調である限りは、リソースが他の事業に振り向けられないため、なかなかテコ入れの対象とならず、結果として後回しになってしまう。

だからこそ、手遅れになる前に打ち手を考える必要がある

しかしながら、「ある収益源に依存した一本足打法では、今後まずくなるであろう」とある程度予想していても、これまで依存していた「収益源」から脱却し、新たな収益源に注力していくことは一筋縄ではいかないのではないか。収益の柱が好調である限りは、切迫感を強く抱くことが難しく、次代を見据えた議論がなかなか進まないことが原因の一つだ。「上手くいっている事業に対してわざわざ口出しをする必要はないのでは」「確かに未来を見据えた収益源を検討する必要があるが、目の前のタスクが多く、検討に着手できていない」といった声は、私の経験からしても、ビジネスの現場から聞こえてきてもおかしくないように思う。実際に、一本足打法を脱却するための議論が本格化するのは、悪化の兆しが見え始め、危機感を抱き出した時だ。だが、「まだ悪化するのは先だ」と思っていても、その未来は確実にやってくる。収益源の見直しや、次代の収益源となる事業への布石は、手遅れになる前に検討をはじめておきたい。

自社の強みが次なる布石のヒントとなる

事業の一本足打法から脱却し、複数事業に収益の柱を分散する手段の一つとして、M&Aによる事業の多角化を検討する企業も多い。しかし、一般的にM&Aの成功確率は2割~4割程度と、あまり高くないのが現状だ。特に、事業の多角化を目指す際に取りうる異業種M&A(新製品や新サービス)は難易度が高く、成功確率は更に低くなる。一方で、事業変化を見据え、自社の資源を有効に活用した事業ポートフォリオの変化を遂げた企業も多く存在する。例えば、カメラ事業が本業であったキヤノンは自社の光学技術を活かした多角化を遂げた。また、百貨店や大口顧客向けといった法人中心の宅配事業から個人向け宅配へと事業を変化させたヤマト運輸という例もある。環境変化によって主力の収益源が立ち行かなくなる場合に備えて、現在の収益源で回せているタイミングで今一度リソースを見直し、次の一手を考えて続けることが肝要だ。

MAVIS PARTNERS アナリスト 橋本良汰

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