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M&Aでも「双方で取り組む意義」を確認せよ

2020-10-16

M&Aでも「双方で取り組む意義」を確認せよ

担当者同士の想いが意気投合し、初商談でも成約へ

「最初は御社のことを怪しいと思っていたが、目指す方向性が同じということを理解できました。」
これはクライアントであるA社とその顧客B社の初めての商談に同席した際に、B社の担当者から出た言葉である。両社はこれまで取引の実績もなく、担当者の顔合わせもこの商談が初めてであった。この商談は、A社がB社の代表連絡先にコンタクトしたことにより実現したものであった。A社はまさしく「ド新規」の営業先としてB社との商談に臨んだのであった。逆にB社にとっても、A社はこれまで取引のない業者であり、いわば飛び込み営業にきたA社のことを、商談前は怪しんでいたという。しかし、この初回の商談で両社は一気に意気投合し、今後のサービスの導入まで話が進んだのである。風向きが変わったのは、両社の担当者が事業を通して達成したい「想い」を話し合い出した時であった。双方が事業を通して実現したい方向性が合致していることを確認し、お互いで取り組むことでより良い方向に進んでいくことに納得したのであった。飛び込み営業からスピーディーにビジネスが実現しようとしていた。

双方が大事にしている大義が合致すれば、話が進みやすくなる

担当同士の事業への想いが合致し、交渉がトントン拍子に進んでいく。個人や会社がビジネスに取り組んでいる意義を「大義」と呼ぶならば、双方が大事にしている「大義」が同じ方向性を向いていることが、関係性構築の第一歩と呼べるのではなかろうか。今回の事例だと、A社とB社の担当者が持っているそれぞれの大義が同じ方向性を向いていたために、初回面談という条件付きでも関係性が一気に深まったのではないか。私もA社の営業支援の一環で顧客へのアポイント取得に携わる機会があるのだが、やはり自社の説明だけではアポイント取得の成功確率は低い。むしろ、相手のことを知り、相手が実現しようとしている「大義」に興味を持ち、話を聞くことの方がアポイント取得の確率は高まるのである。たとえこれまで関係性がなかった相手であっても、両者の大義が同じ方向性を向いていることを理解してもらえれば、相手との関係が始まる契機となる。関係性が浅い段階だからこそ、両者が大切にしている大義を話し合えるような会話を意識的に設けることが重要だと理解している。

相手と取り組む意義を深化していく3ステップ

A社の商談やアポ取りの支援に従事する中で、上手く関係構築できるパターンはおおよそ以下の3ステップを踏んでいることが分かった。1つ目は、商談の準備段階で自社と相手の大義の共通点を入念に検討することだ。会社の理念、事業を通して実現したい想いなど、相手企業がビジネスに取り組む意義を確認し、A社との合致点を事前に用意しておくのである。2つ目は、商談の早い段階でA社の事業の意義を説明し、相手企業と目指す方向が同じであることを示すことだ。やり取りを始めた早い段階で相手企業との大義が一致していることを説明し、両社で取り組む意義を説く。そうすることで、相手が提案を受け入れる土壌が広がるのである。そして3つ目は、繰り返し両社で取り組む意義を再確認することだ。両社で取り組む意義を節目ごとに確認し、企業同士、担当者同士で大義を一緒に実現していくことを繰り返し確認するのである。このように一緒に取り組む意義を考え、説明し、再確認していくことでA社は商談の成功確度を上げていたのである。

異なる会社同士が一つになるM&Aこそ、双方で取り組む意義の確認が重要

企業間同士、担当者同士でも、それぞれの大義が同じ方向性を向き、相手と取り組む意義が明確になっていることは一緒にビジネスを進めていく上で重要な要素である。M&Aにおいても、親会社と子会社がひとつのグループとしてビジネスを進めていく意義は、M&A戦略立案やPMIのフェーズで既に議論されているはずである。しかし、両社にとって自明であると思われていても、親子間の関係が上手くいっていないケースもあるのではなかろうか。両社で進めていく意義を企業間や担当者間で今一度確認し、議論し合うような仕組みを設けることが、M&Aを成功させる上で重要なのではないか。私自身も、「なぜ相手と一緒に取り組むのか?」という問いかけを忘れないように心がけていきたい。

MAVIS PARTNERS アナリスト 橋本良汰

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