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「自分がやりたいこと」から始めるということ

2025-11-07

「自分がやりたいこと」から始めるということ

最初に浮かぶ「一枚の絵」

先週末、絵本作家のたかいよしかずさんのトークイベントに参加した。
その中で印象的だったのが、「最初に描きたい絵が頭に浮かんできて、その後、その絵がどこかに入るようにストーリーを考える」という創作プロセスの話だった。
多くの作家は、ストーリーがあって、それに合う絵を描いていくのだと思っていたので、「まず一枚の絵ありき」という順序は新鮮だった。一方で、よく考えると、我々の日常の創造的な仕事も、案外それに近いのかもしれないとも感じた。
「こういう企画をやってみたい」「こういう場をつくってみたい」といった、言ってみれば自分の中から自然に湧いてくる“欲求”や“衝動”が最初にあって、その後で「なぜそれをやるのか」「誰にどんな価値があるのか」といったストーリーを後付けで組み立てていく。順序としては、むしろこの方が人間の自然な思考回路に近いのだろう。

欲求から始まるストーリーづくり

創造的なアウトプットというと、「社会のニーズを丁寧に分析し、論理的に企画を組み立てる」ようなイメージが強い。しかし、たかいよしかずさんの話を聞いていて、「これしたいな」という、個人的な欲求から始めた方が、結果として面白いものが生まれやすいのではないか、とも思った。
かつて、「贈り物は相手の好きなものではなく、自分の好きなものから選べ」という言説を目にしたことがある。相手の好きなものだけを起点にすると、「ああ、これね」と既視感のある選択になりがちだが、自分が好きで、詳しい領域から選ぶことで、「そんなの知らなかった」という良い意味でのサプライズを与えられる、という趣旨だったと記憶している。
これは創作や企画にも通じる話だと思う。相手のニーズだけを出発点にすると、どうしても「どこかで見たことのある提案」になりやすい。一方で、「自分はこれが好きだ」「どうしてもこれをやってみたい」という、少しわがままにも見える欲求を起点にした方が、結果としてオリジナリティや熱量が伴いやすいのかもしれない。

コンサルの仕事と「自分の欲求」

コンサルという仕事は、形式的にはクライアントからの相談を受けて、それに応える形で支援をする仕事である。問いの出発点はあくまでクライアント側にあり、「相手が何を求めているのか?」を正しく理解することが重要だ、というのはその通りだと思う。
一方で、たかいよしかずさんの話を聞いて以来、「クライアントの欲求」だけでなく、「自分は何を実現したいのか?」という視点も、同じくらい大事なのではないかと感じている。例えば、「この会社と一緒に、こういう意思決定のあり方をつくってみたい」とか、「この業界に対して、こういう問いを投げかけてみたい」といった、自分側の欲求である。
もちろん、それを一方的に押し付けるのは違う。ただ、プロジェクトの中でクライアントの課題と自分の欲求が重なる“交点”を探しにいくと、仕事が単なる「依頼への回答」ではなく、「一緒につくる創造的な営み」に変わっていくのではないだろうか。逆に、自分の側のゴール設定が何も無いと、「正しいけれど、どこか味気ない提案」に落ち着いてしまいそうだ。

このコラムも

今回のコラムも、たかいよしかずさんの「最初に描きたい絵があって、その後ストーリーを考える」という話に興味を持ったことが出発点だった。「このエピソードをどこかで書きたいな」という欲求が先にあり、その絵をうまくはめ込めるようなストーリーを後から考えている、という意味で、まさにたかいよしかずさんのプロセスをなぞっている。結果、いまコラムを見返してみても個人的にはしっくり来ている(創造的かはさておき・・・)。
何をするにしても、「自分は何をしたいのか?」という起点をきちんと持てるかどうかが、自分の能力を最大限発揮したアウトプットを出すために重要なのだろうと思った。目の前の相手のニーズと、自分の欲求。その両方を考えながら、これからも仕事していきたいと思う。

MAVIS PARTNERSアソシエイト 井田倫宏

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