1.アナリスト
印刷出張をInputの場からOutputの場に~コロナを期に見つめ直す出張のあり方~
2020-10-02
コロナショックで出張を気軽にできなくなった
新型コロナウイルスの影響で我々の生活は一変した。これまでの自然災害や金融危機と異なり、人との接触を制限するコロナショックは、リモートワークやテレビ会議など、仕事のやり方にも大きな影響を与えることとなった。
弊社でも会議はリモートで行うことが多くなったが、以前は対面で会議を行うことが当たり前だったし、時には日本全国・海外へのヒアリング・現地視察といった機会も少なくなかった。
「現地を見て、実際の状況を把握してほしいけど、このコロナ感染状況だと難しいね。」これは、先日クライアントから言われた一言である。このクライアントは近畿地方で、あるプロジェクトを進めており、我々はその支援を行っている。
確かに実際に現地に赴くことで得られる気づきや学びは多い、しかしそれらの気づきや学びは、本当に出張しなくては得られないものなのだろうか?
Inputを目的とした出張はNG
ある外食事業を行うクライアントを支援していたときの話である。そのPJでは、店舗でのオペレーション効率を改善し、顧客の満足度を向上させることが目的であったため、私は実際の店舗でのオペレーションを確認するために、現地に赴いた。その結果、商品の提供時間は何分か?提供される商品の見た目はどうか?などあらゆる観点からファクトを得ることが出来た。
しかし、得られたファクトはどれも、クライアントへのヒアリングの中で知っていたことで、それを実体験で検証したに過ぎなかったのだ。
・提供時間→事前に聞いていたとおり、目標時間をXX分オーバーしていた
・商品の見た目→事前に聞いていたとおり、XXという面で店内飲食に劣る
といった具合だ。
また、あるビジネス情報雑誌の記事に、IT先進国であるエストニアで日本企業がひんしゅくを買っているという記事があるのを目にした。記事によると、近年エストニアのスタートアップ企業を訪ねる日本企業が増えているが、情報収集を目的に訪問するケースが多く、なるべく早く商談を前に進めたいエストニアのスタートアップ側からすると、「お勉強目的」の訪問は迷惑でしか無いとのこと。
上記2つのケースでは、いずれもInputを主目的として現地に赴いている点で一致している。そもそも、検証したい論点と仮説がしっかりと定まっていれば、現地に行かなくても、現地を知る人物にヒアリングすることで済むことが多いため、Input目的の出張自体、貴重な時間とお金に見合う価値は無いのかもしれない。
「行ってよかった」と思う出張には、何かしらOutputがつきもの
出張全てが無駄かというと、もちろんそうではない。事実、これまでの出張でも、「今回現地に行ったおかげで、PJを円滑に進められそうだ」や「現地に行ったことが、相手との信頼構築につながった」といった想いをしてきた。
これはそういった経験の中の一つであるが、かつて総合商社のクライアントをご支援していた際に、東南アジアの工場に現地視察をしたことがある。そのときは、単に情報を集めに行くのではなく、現地メンバーと膝を突き合わせて議論することを主目的にした。
その結果、現地にいる間に検討を前に進めることが出来たと同時に、現地メンバーを巻き込んでPJを一体となって進めていくことが出来るようになった。つまり、単なる情報のInputに留まらず、出張に行かなくては実現できなかった成果(Output)を得ることができたのである。
現地視察にはお金もかかるが、何よりも取られる時間が大きい。そのお金・時間をかけてでも、現地に行くのであれば、相応のOutputを実現することが求められるのではないだろうか。
現地訪問が重要性を増すM&Aだからこそ、事前の準備も重要になる
新型コロナウイルスの影響は、M&Aにも及んでいる。市場の先行きが不透明になったことや、株価急落による想定していた条件での買収断念など、様々な理由からM&Aの中止や延期が相次いでおり、中には、DDのための現地調査や経営トップ同士の交渉が進まず、中止・延期になっているケースもある。
現地との密なコミュニケーションや、信頼構築が必要となるM&Aだからこそ、現地への訪問は意味がある。その際に、1回の訪問でいかに交渉を前に進めるのか?が重要になるのは言うまでもない。
今は現地に行くことが難しいケースが多いと思われる。そんなときだからこそ、事前の論点整理・仮説構築やリモートでのヒアリングなど、来たる日に向け、より実りある現地訪問を実現させるための準備を進めることが重要なのではないだろうか。
MAVIS PARTNERS アナリスト 井田倫宏