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指摘を嬉しいと思う人・鬱陶しいと思う人

2022-10-14

指摘を嬉しいと思う人・鬱陶しいと思う人

指摘を受けて嬉しいと思う人

以前、社長と週次でディスカッションをするプロジェクトのメンバーだったとき、非常に印象に残っている出来事がある。
その社長は、創業者でもあり、既存の主力事業だけでなく、新たな成長の柱となるような新規事業を生み出し育てていくことに非常に積極的で、次から次へとアイデアを出してはトライするような方だった。そんな人に対して、あるとき「社長のお考えのまま進めると、こんなリスクがあるので、慎重に考えた方が良い」と指摘をしたことがある。
コンサルタントとして、そういった指摘をするのは当たり前と言えば当たり前なのだが、(表現はやや雑かもしれないが)非常に主張の強い方なので、そのような指摘をすることに若干の緊張はあった。しかし、それを言ったときに社長から返ってきた第一声は「気づかせてくれてありがとうございます。」という言葉だった。その方は、自身の強い考えは持っているものの、外部からの指摘に対しては、非常に真摯に耳を傾ける方だったのである。
我々コンサルタントも、社内でクライアントに出す資料の確認をしているときに指摘を受けるのは嬉しい。それは、相手が部下であっても上司であってもだ。なぜなら、クライアントに出して失敗することを防ぐことが出来るからだ。
上述の社長も、事業を走り出させる前に、外部から指摘を受けたことで、失敗するリスクを減らすことが出来たという考えがあるからこそ、「ありがとう」という言葉が出てきたのだと思う。

指摘を受け入れない人

上述の話とは逆の意味で印象に残っているプロジェクトもある。とある企業の新規事業開発のご支援をしていたときのことだ。
その新規事業開発の担当者は、入社15年目くらいの中堅社員だった。あるとき、その方が考えた事業案に対して、私がレビューをするという会議があった。その方から出てきた案は、上層部が言っていたことをただなぞっているだけで、その事業がどうやったら成功するかを全く考えていないように見えた。そのため、出てきた案のおかしな部分を指摘して、「この考えで進めたら、かなりの可能性で事業はうまくいかないですよね?」と訴えた。すると、その担当者は「言っていることが分かるが、上司がこう言っているので仕方無くないですか?」と返してきた。
このように、外部のコンサルタントからの指摘を鬱陶しがる人も少なくないと思う。
こういうことがあると、すごくモヤモヤして、「もっと上手く伝えることは出来なかったのか?」とか、「もっと別の社内の人に根回しをして、言ってもらったほうが良かったか?」とか、いろいろ考えるが、なかなか難しい。最終的に事業を進める主体は、その担当者本人だし、意思決定をするのはその方の上司や経営層なので、外部のコンサルタントがコントロール出来る範囲は限られているからだ。

決定的な違いは”自分ごと”かどうか

これまで、様々なクライアントのご支援をしてきたが、一口にクライアントといっても、我々コンサルタントが対面する相手の役職や立場は様々である。現場の担当者レベルの方とメインで議論することもあれば、社長や取締役レベルの方々と直接議論するようなプロジェクトもある。
振り返ってみると、より会社の経営に近い立場にいる方ほど、我々コンサルタントからの指摘を真摯に受け止める傾向があるように感じる。それはやはり、自らのやり方や考えが誤っていた、あるいは検討が不十分で事業・施策が上手くいかなかった場合に負うべき責任が大きいからだと思っている。つまり、より自分ごととして、その指摘を捉えているからこそ、外部の意見でも真摯に耳を傾けるのではないだろうか。
逆に、たとえ上手くいかなかったとしても、自ら責任を取ることがない立場であれば、個人としてのリスクは小さいので、外部からとやかく言われるのを鬱陶しく思うのも理解出来る。

会社の収益は、現場社員にとっても自分ごと

最近、大西康之さんの書いた「会社が消えた日 三洋電機10万人のそれから」という本を読んだ。この本の中では、上場廃止前後の三洋電機の経営陣や、三洋電機を買収したパナソニックのトップ、双方の従業員など、さまざまな関係者の当時の様子や語っていたことが描かれている。内容が非常に生々しく、当時の三洋電機の従業員の方々に思いを馳せながら、いろいろなことを考えた。当時1兆円を超える売上を誇る、日本を代表する電機メーカーだった三洋電機に勤めている方々にとって、自分の会社が無くなるというのは、想像も出来なかっただろう。
三洋電機の経営が行き詰まった要因はいくつもあるのだろうが、現場レベルの従業員によるところが全く無かったかといえば、そうではないような気もしている。
会社は変わるが、先日亡くなった稲盛和夫さんがJALの経営再建に携わったときに、様々な現場を回った上で、管理職も含め現場社員に収益に対する意識が無いことを指摘し、「これでは八百屋も経営出来ない」と記者会見で言ったのは有名な話だ。
会社が無くなる、倒産するというのは少し大げさだが、会社の経営が行き詰まって、給与が減ったり、リストラされたりというのは、いまの時代、どんな会社も無縁な話では無いと思う。そう考えると、進めている事業や施策の失敗リスクを意識するのが、経営陣だけで、従業員は言われたことをやるだけというのは、おかしな話だと思う。

キャディの意見が活かされるかどうかはプレイヤー次第

コンサルタントは、ゴルフのキャディのような存在だと思っている。
キャディ(コンサルタント)は、コース上の情報(市場環境)から、OBや池などの危険性(想定される事業上のリスク)をお伝えし、どのクラブでどの方向に打つべきか(リスクに対してどういった打ち手で対処すべきか)を提案する。それを受けて、プレイヤー(クライアント)はショット(意思決定・実行)する。
このとき、プレイヤーがスコアを全く気にせず、ただ楽しみたいだけだとしたら、キャディの言ったことを無視して、成功確率が非常に低くても池越えを狙うだろうし、スコアにシビアだったとすれば、キャディの言うことを真摯に受け止めるだろう。
我々コンサルタントは、キャディとして、プレイヤーたるクライアントのサポートをしていきたいと思うが、そのときに、大前提として、スコアを気にしているのか(会社の収益を意識しているのか)は、成果に大きな影響を及ぼすなと感じている。

MAVIS PARTNERS アソシエイト 井田倫宏

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