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人間であるという武器をどれだけ活かせるか

2025-09-26

人間であるという武器をどれだけ活かせるか

もう人間がするWeb上の情報収集にほとんど価値は無い

これまで生成AIの活用が送れていると指摘されてきた日本でも、徐々にビジネスの場での活用が進んでいるのは、どなたも最近感じるのではないだろうか。実際、大半の人が活用しているとまでは言えないものの、例えば、矢野経済の調査によれば、2023年から2024年の1年間だけでも生成AIを社内で活用する企業の割合は15.9%増加していたり、帝国データバンクの調査によれば、活用している企業の9割近くが「一定の効果を実感」していたりと、数値データからも普及の様子がうかがえる。
そんな生成AIだが、数年前に流行り始めた頃は、「壁打ちには使えるけど、ファクト収集は弱くて、リサーチには使えないな」という印象だった。ところが、最近のモデルアップデートにより、壁打ちでの有効性はもちろんのこと、Web上に限定すればかなり広範に情報を取ってくるようになったと感じている。
しかもその調査結果が数分以内に返ってくるのだから、もはやWeb上の情報収集においては、スピード・質ともに人間はAIに敵わず、できることはAIが出した情報が正しいものかを出典を見て検証するくらいになっている。

AIは”リサーチ”してくれない

生成AIがWeb上の情報収集までできるようになっているのは上述の通りだが、”リサーチ”をしてくれる訳では無い。
本来あるべき”リサーチ”は、大まかに以下の3つの段階を踏むと考えている。
①解きたい論点を解けるレベルまで分解
②分解した論点に対する仮説を構築
③それら仮説を、できる限り信頼できるファクト情報によって検証
この中でも、個人的には、生成AIは①と③が弱いと思っている。
①が弱い理由は、「論点の背景にある事情を知らないから適切に論点を分解できない」ことだと考えている。実際に、我々が仕事をしていても、クライアントと議論をしていく中でいくつも論点が出てくるが、リサーチに取り掛かる際には、「クライアントはこんなことを特に気にしていたな」とか「会議での温度感的にここが特に重要だな」といった背景事情から、論点をさらに具体的にしている。しかし、これは現状のAIでは出来ず、リアルな場の空気感・温度感を知っている人間だからこそできることといえる。
③が弱い理由は、当然ながら、「Web上の無料の情報しか見られない」ことである。リサーチにおいてインプットすべきファクトは、何もWeb上の情報に限らず、むしろWeb上の情報は世の中に存在するファクトのほんの一部に過ぎないので、Web上の無料の情報しか見られない生成AIは仮説の検証の一部しか出来ないといえる。

AIという武器がある中で、リサーチにおいて自分が特に心がけていること

とはいえ、Web上でクイックかつ広範に情報を取ってきてくれる生成AIは、リサーチにおける強力な武器であることは間違いない。
そんな武器がある現在の世の中において、個人的に心がけていることが3点ある。
1つ目は、「問いを可能な限りシャープにする」ということ。上で書いている通り、背景を踏まえて問いを分解する力は弱いので、できる限り具体的に問わないと、こちらの意図と異なる回答が返ってくるケースも多い。例えば、「生成AIの活用は日本で伸びているか?」という問いがあったときに、「生成AIを社内で導入している日本企業の比率が時系列で伸びていることを示す調査論文・レポートはあるか?(帝国データバンク等の信頼できる情報機関が発行しているものに限る)」といった感じで具体化するイメージ。一番やってはいけないのが、「生成AIの活用は日本で伸びているか?」みたいな粗い粒度の問いをDeep Researchに丸投げすることである。
2つ目は、「しつこいくらい聞き直す」ということ。問いを可能な限りシャープにするとは言ったが、それでも完璧な問いを立てることは難しく、ズレた回答が返ってくることは避けがたい。そのため、徹底的に不備を指摘して何度も結果を出力させる。そうすることで、出力結果の精度も高まると感じている。AIは人じゃないから、どれだけ調査結果にダメ出ししてやり直しさせても、心が折れたりしないので有り難い。
3つ目は、「AIがあるからこそ人間にしか出来ない調査に時間を使う」ということ。調査したい論点に詳しい人に直接話を聞くとか、Web上には落ちていないような文献の内容を図書館に行って漁るとか、そういう足で稼ぐ系の調査はAIにはできない。我々コンサルの仕事であれば、クライアントの商品を使ってみるというのも調査の一種だと思うが、それもAIには絶対にできない。

逆に人間であるという武器をどれだけ活かせるかが重要

巷では、AIによって人間の仕事が奪われるという話が多々あるが、コンサルの仕事に関しても、「リサーチ業務がAI奪われる」と言っている人を見たことがある。だがそれはAIができる範囲のことしかリサーチでしていない人の意見だというのは、上述の内容を踏まえていえる。
AIはたしかに強力な武器だが、特に我々コンサルタントとしては、逆に人間であるという武器をどれだけ活かせるのか?ということをよく考えて行動すべきだと考えている。そうしたマインドを持って働いていないと、リサーチに限らず、自分の仕事の価値がどんどん下がっていってしまうので。

MAVIS PARTNERS アソシエイト 井田倫宏

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