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ビジネスと麻雀に共通する「”プロセス”を振り返る」ことの重要性

2025-09-05

ビジネスと麻雀に共通する「”プロセス”を振り返る」ことの重要性

「成功体験」という最も危険な落とし穴

私は前職で営業職を経験している。営業の世界では、どれだけ成約したか・どれだけアップセルできたかといった数字として現れる”結果”が特に重要視される。どのような”プロセス”であっても、その”プロセス”が言語化され再現性を担保されていなかったとしても評価されがちである。
以前、目標を大幅に達成し、上司に「今月の素晴らしい成果、その要因は何だったんだ?」と問われた私は、まるで名将のように、いくつかの施策が見事に功を奏した”結果”だと得意げに語った。A社へのアプローチのタイミング、B社への提案資料の改善、それらがすべて上手く噛み合ったのだ、と。
しかし、この振り返りは必ずしも正しいと言えるのだろうか。その成功には、競合他社の突然の失策、たまたまキーパーソンの機嫌が良かったといった、再現性のない「幸運」が影響していることはなかったと断言できるだろうか。
良い”結果”の前では、誰もがその美しい成功ストーリーを信じたがってしまう。かく言う私も、その心地良い評価に浸り、”プロセス”の客観的な検証を怠ってしまうことが少なからずあったと自認している。ただ、幸運による成功に酔いしれることは、将来の成功の再現性を高める機会を自ら放棄する行為に他ならない。

“結果”と”プロセス”を切り分ける思考法

例えば麻雀で、東場の親番で上級者なら100人中100人が先制リーチを行うような場面でも、直後に他家から追いかけられ、一発で高打点を放銃してしまうこと(正しい選択をしても負けてしまうこと)は往々にして発生する。
”結果”だけを見ると、これは失敗だ。しかし、「あそこでリーチをかけたのが間違いだった」と反省するのは、最も成長を妨げる悪手である。上級者の場合、「リーチ判断は期待値を最大化する選択であり、今回の”結果”は単に下振れた(運が悪かった)だけだ」と考える。そして何事もなかったかのように、次の局で再び期待値の高い選択を探し始めるのだ。
厄介なのは、逆に間違った選択がたまたま成功してしまうケースである。麻雀があまり上達しない人は、間違った選択で得られた素晴らしい”結果”に酔いしれ、その危険な選択を「成功体験」として記憶してしまう傾向がある。上達するためには、正しい”プロセス”から得た敗北から学び、間違った”プロセス”から得た勝利を厳しく戒める必要があるのである。

ビジネスと麻雀の共通点

この考え方は、ビジネスにおける反省にもそのまま応用できる。麻雀における「運」とは、ビジネスにおける「自分ではコントロールできない外部要因」と言い換えることができるだろう。それは、市場の追い風や競合の失策、日々の業務における「周囲からの予期せぬサポート」なども含まれる。
以前、ある業務の振り返り会議で、成功という”結果”に安住し、”プロセス”を深く検証しなかったことがある。その際に弊社代表はこう問いかけた。
「”結果”だけを振り返ってはいけない。仮に、今回のような上司のサポートが一切なく、君が一人ですべてを実行していたらどうなっていたと思うか?」
その一言は、まさに麻雀で強くなるために必要な思考法と同じであった。日々の業務においても、上司のサポートという「幸運」がなければ、私の選択した”プロセス”は果たして最適だったのか、と常に自問すべきなのである。
ビジネスにおいても麻雀と同様に、良い”結果”が出た時ほど、「これは自分の実力か、それとも運が良かっただけか」と自問する勇気を持たなければならない。そうでなければ、次に同じ成功を再現することなどできるはずがないのだ。

“結果”ではなく、”プロセス”を反省すべき

仕事における反省とは、成功や失敗という短期的な”結果”に一喜一憂することではない。その”結果”から、「自分ではコントロールできない外部要因」を注意深く取り除き、自分の選択、すなわち”プロセス”そのものの質を検証することが重要である。
私たちが本当に向き合うべきなのは、その意思決定の”プロセス”だ。
「その”結果”は、運によるものか、実力によるものか?」
「その判断は、当時持っていた情報の中で、最も期待値の高い選択だったか?」
「この成功は、運の要素を排除しても、再現性のある”プロセス”が生んだものか?」
コントロールできない”結果”に心を囚われるのではなく、自らの意思で改善できる”プロセス”にこそ、成長の鍵は眠っている。”結果”に一喜一憂するのではなく、厳しく自らを客観的に振り返ることこそが、一時の成功体験を、再現性のある確かな実力へと昇華させる重要な思考法であると考えている。

MAVIS PARTNERS アナリスト 西井建人

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