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アナリストはもう要らない

2025-05-02

アナリストはもう要らない

アナリスト業務と生成AI

コンサルティングの現場において、見習い的役職、いわゆる“アナリスト”の役割とは何か。それは、上長コンサルタントの投げかける問い(論点)に対し、あらゆるリサーチを駆使して妥当と思われる解(仮説)を導き出すこと。あるいは、上長コンサルタントから仮説が提示された場合には、それに対してリサーチや分析を通じて検証すること。このように、上が示す問いを受け取り、それに応えるというのがアナリストの基本的な役割だ。

ところが、今や生成AIという存在が、このアナリスト業務の大部分を代替し得る状況になっている。問いさえ投げかければ、数十秒で“それなりの回答”が返ってくるし、仮説に対しては、反論や補完的な視点を瞬時に提示してくれる。もちろん、それらの回答を鵜呑みにすることはできない。適当な回答も多いし、ロジックが通っていないことも多い。しかし、それでも反応が極めて速く、相手の負荷を考慮せずに繰り返し壁打ちができるという点において、生成AIは、思考を深める上で有用なパートナーとなる。

生成AI時代に求められるコンサル機能

生成AIの台頭によって、重要になったのは、生成AIの回答に対して「どこに違和感があるか」を自分の感覚で察知し、それを正確に言語化し、思考の軌道修正に活かす力だ。このスキルさえあれば、生成AIとの対話はアナリストとの議論を確実に凌駕する。むしろ、アナリストが従来のように大量の資料を読み込み、検証し、比較し、そのうえで上長との議論に挑むというプロセスを経ることなく、上長コンサルタントは、自分自身の思考を深化させることができるのだ。

さらに言えば、生成AIとの対話によって思考を深めた後は、その成果をステークホルダーが納得できる形に翻訳する、すなわちストーリー化することも重要だ。ここは、さすがに生成AIの弱い領域のようだ。複雑な利害関係、人間関係、歴史的な背景や組織の空気感を踏まえたストーリーテリングには、依然として人間の共感力とバランス感覚が求められると思っている。人間は、「自分ならどう感じるかな?」と、臨機応変に、相手の立場に立って想像することができるところが強みだ。

これからのアナリストに求められるスキル

以上を踏まえれば、コンサルティングにおいて、切れ味のある問いを立て、生成AIからの回答に違和感を持ち、それを言語化し、壁打ちを気が済むまですることで思考を深め、その結果を関係者が受け入れやすい形に、ナラティブに編集する力があれば、従来のアナリストが担っていた調査・分析・検証といった仕事は、もはや必要ではない。

もしかしたら、「アナリストがいなければ誰が資料を作るのか?」といった声が上がるかもしれないが、それは大きな誤解。資料作成は、コンサルタントの本質的な仕事ではない。内容があれば、デザインや編集が得意な専門職に任せた方が遥かに効率的で美しい成果物ができる。時間をかけてパワーポイントを整えることに価値はないし、コンサルタントがそこに時間を使うべきでもない。

では、アナリストが、コンサルタントとしてこの先も価値を発揮し続けたいのであれば、どうすれば良いのか?端的に言えば、与えられた問いに対する解の精度を上げる努力をすることは当然だが、生成AIがやれない対応をするしかない。問われたことに反応するだけでなく、なぜそれが問われているかの意味を理解し、問われた以上の内容を返すこと。その状況に応じた言外を読むことは人間の方が、分があるはずだ。そこを活かすしか生き残る道はないし、「指示待ち」、「問い待ち」、「意見待ち」は駆逐される。

MAVIS PARTNERS プリンシパル 田中大貴

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