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戦略アップデートのスピードが競争優位になる

2022-06-03

戦略アップデートのスピードが競争優位になる

戦略と戦術をあらためて

「XX戦略が必要なんだ」とか、「うちの会社にはXX戦略がないんだ」とか、やたらと、“戦略”という言葉がインフレ化していると思うことがある。とりあえず“戦略”という言葉をつけておけば、正しそうなことを言っているように聞こえてしまうので、“戦略”とは、実に厄介なキーワードだ。
一方、戦略と似たキーワードに“戦術”があるが、こちらは一般的に使われるのをあまり聞いたことがない。戦略に対して、戦術は下位概念であると理解されている方は多いと思うが、では、戦略と戦術の明確な定義の違いは何だろうか?世の中には、色々な定義があり、「戦略」や「戦術」について解説された記事は、いくらでも書籍やインターネットで調べられるが、いまひとつピンとこないので、私なりの定義も解説してみたい。
ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典によれば、「戦略とは綱領的な基本目標によって設定される闘争の一般的方向性をいい、戦術とは戦略に基づく個々の具体的な場面における判断や闘争の技術のことをいう。」とある。あらゆる辞典で、戦略と戦術は説明されているが、私の定義はこのイメージに最も近い。
上記の解説記事を簡略化すると、戦略とは「基本目標によって設定される方向性」であり、戦術とは「戦略に基づく具体的な場面の技術」である。

戦略が大事であることは確か

言い換えれば、「戦略を策定する」とは、「目標を達成するために方向を決めること」であり、方向を1つに決めることなのである。1つに決めるということは、他の選択肢は捨てるということである。ゆえに、戦略とは、逆説的に、「やらないことを決めること」とも表現されるし、高いリターンを得るために、一定のリスクを取ることでもある。戦略を策定する上では、選択肢となる方向性はきれいに場合分けされていた方が良い。東西南北のうち、どの方角へ進むのか?を決めるのと同じだ。
また、「戦術を立てる」とは、「決めた方向に進む上でぶつかる障壁の乗り越え方を決めること」である。要は、戦術とは手段であり、目的ではない。戦略が「何がしたいがために、(複数の選択肢から)何を選ぶのか」を示すのに対して、戦術は、「選んだものを遂行する上で、どう上手くやるか」である。
戦略にまつわる格言で、「戦略の失敗は戦術で補うことはできない」とあるが、そもそも向かうべき方向性が間違っていたら、障壁を乗り越える技術に長けていても意味をなさないのと同義である。戦略を策定し、戦術を立て、戦闘することで、勝利に導ける。一定の戦闘力が無ければ、実現できない戦術もあるだろうが、戦闘力だけを上げたところで、戦略と戦術が無ければ、勝機は見出せない。戦略はやはり上位概念として重要であることは間違いないだろう。

変わってきた戦略の位置づけ

では、戦略が大事そうというのはわかったとして、そもそも戦略を立てることがなぜ必要なのか?その答えには、向かうべき方向性を間違えてはいけないから、という前提がある。ベンチャー企業のように機動性が高い組織であれば、一度決めた戦略をトップの意向でガラッと変えてしまっても良いのかもしれないが、大企業にもなれば、一度決めた戦略、つまり、見定めた方向性を急に変えるのは至難の業だ。利害関係者も多く、説明コストもかかるだろうし、そもそも大企業がコロコロ戦略を変えるようでは一貫性も無く、社会的に無責任にさえ感じてしまう。大企業は、大型旅客船に例えられることがある。方向を変えるために舵を切っても、図体が大きい分、すぐに軌道が変わるわけではない。だからこそ、はじめに示す方向性(戦略)が大事であるという意味だ。
しかし、時代も変わり、最近はその軌道も比較的早いスピードで変えられるようになったように思う。デジタル技術の進化、内外コミュニケーションツールの発達、有識者斡旋サービスの台頭等のおかげで、気軽に経営のトライアンドエラーができるようになったからだ。「試しにやってみて違ったら、方向を修正すればいい」、そんな考え方を、大企業もするようになってきたように感じる。

戦略コンサルタントの役割とは

すると、戦略の位置づけも変わって、一生懸命、時間をかけて分析して考えて戦略を導くということの重要性が薄れてきたようにも思う。では、戦略策定を生業にしていた戦略コンサルタントの役割も相対的に価値をなさなくなってきたのだろうか。おそらく、昔ながらの戦略策定だけに立脚した場合は、残念ながらそうだろう。戦略の位置づけが変わったのならば、戦略コンサルタントの期待役割も変わって然るべし。私が今捉えている価値の出し方としては、クライアントとの議論の中で、「試しにやってみて違ったら、方向を修正すればいい」という状況になったとき、考え得る限りの結果を“先読み”し、「その場合であればこうすべき」という“先提言”をしてしまうことだ。もしかしたら、結果が何かしら出たとしても、大した示唆につながらないならば、その「試しにやってみる」ということは、そもそも不要なのかもしれないし、或いは、先提言することで、「そうなった場合は、次はこれしてみよう」と次の展開まで議論して見据えることができる。そして、先読みと先提言をしておけば、いざ結果が出たときに、戦略の即アップデートが可能だ。
今後ますます、「じっくり戦略を考える」ことは減っていき、いかに先の展開を考えられるか、結果に対して戦略をどれぐらいのスピードでアップデート出来るかが肝になっていくのだろうと思う。時代が変われば、求められるものも変わる。それに適応しなければ、生き残ることは出来ない。「適者生存」とは、実に理にかなった人生訓だ。

MAVIS PARTNERS プリンシパル 田中大貴

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