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優秀な個を諦めるという発想

2024-08-02

優秀な個を諦めるという発想

日本ではこれから益々”仕組み”が重要になるはず

これまでコンサルをやってきて、クライアント社内の仕組み作りに関わる機会というのが何度かあった。M&Aの検討プロセスを形式知化しプロセスに落とし込むプロジェクトや、社内プロジェクトにおける会議運営・経営層への報告の型を作るプロジェクトなどがそれに当たる。
このような仕組み作りを行う背景には、人による業務の質のばらつきを最小限に留めたいとか、退職や異動によって人が入れ替わっても業務の質を担保したいといった意図がある。
人口が減少し、企業における人材の流動性が高まっている日本において、常に優秀な社員を潤沢に確保できる企業というのは稀だろうと思う。多くの会社では、求めるスキルや知識を持った人物の採用ができなかったり、できたとしてもすぐに辞めてしまったりという問題に悩まされ続けるはずだ。
そんな日本においては、今後より仕組みの重要性が増すのは間違いない。

個に頼れないなら仕組みでカバーする

(ここから少し個人的な趣味の話になりますが、ご了承ください)
実は仕事とは別のところからも、仕組みの重要性を日々痛感している。それは私が応援しているサッカーJ1アルビレックス新潟(以下、新潟)からである。
他のスポーツでもそうかもしれないが、基本的にサッカーではお金のあるチームに強力な選手が集まる。Jリーグにおける、2023年度のチーム別人件費(≒選手に支払う年俸総額)の平均は、J1で約23億円、J2で約8億円、J3で約2億円と、カテゴリが上に行くほど顕著に人件費が上がっていく。
では新潟はどうかというと、J1で最低の約9億円。基本的に地方クラブは、大企業がスポンサーに付きづらいため、財政的にも苦しくなる傾向があるが、新潟もそれに当てはまる。それでも昨年はJ1で10/18位と中位に留まることができ、今年も人件費上位のクラブを苦しめる健闘ぶりを見せている。
かつての新潟は(超雑に言うと)ブラジルから優秀や若手選手をスカウトし、身体能力の高さで殴るという戦略だったとよく言われる。しかし新潟で活躍したブラジル人選手はすぐに財政力のある浦和のようなチームに引き抜かれて、その度に戦力ダウンしていた。その結果、成績が安定せず、2017年にJ1からJ2に降格。その後J2でも中位~下位に沈むという暗黒期を過ごした。
転機となったのは、スペイン人監督を招聘し、ボールを保持するサッカーを志向し始めた2020年である。それまでのブラジル人の個の力に頼った堅守速攻から、ボールを大事に保持し徐々に前進するスタイルに変更したのだ。スタイルの浸透には2年ほどの歳月を要したものの、その方針転換が功を奏し、今では決してタレント揃いでなくてもJ1で結果を残せるチームに成長している。
(出典:公益社団法人日本プロサッカーリーグ「2023年度 クラブ経営情報開示資料:トップチーム人件費の推移」)

「優秀な個」<「高度な仕組み」なのかもしれない

上述の新潟の方針転換は、本当に英断だったと思う。この方針転換からは、財政力では他J1クラブには到底敵わないから、強力な個を求めることは諦めて、個の影響をなるべく排除した高度な戦術の浸透と維持に振り切ろうという強いメッセージを感じる。
これはスポーツだけでなく、一般の企業でも重要な考え方といえると思う。冒頭でも述べた通り、これからの日本では益々優秀や人材の確保と維持が難しくなるからである。
よく企業の競争力を高めようと言うと、優秀や人材の獲得や育成という方向に目が行きがちだと思うが、もはやそういうことはある程度諦めて、仕組みの構築と高度化によりリソースを割くという判断も重要なのではないかと思う。
話は少し逸れるが、昨今コーポレート・ガバナンスの重要性が高まっている。企業の不正や不祥事が相次いだ日本において、米国式のコーポレート・ガバナンスの考えが輸入され、コーポレート・ガバナンス・コード等のガイドラインが制定されたことが表面的には主な要因といえるかもしれないが、それ以外にも、人材獲得競争の激化というのも、コーポレート・ガバナンスのような”仕組み”の構築が重要視される大きなファクターになるのではないだろうか。
そう考えると、企業における仕組みの構築・高度化というのは、非常に社会的な意義のある取り組みだなと感じる今日此の頃である。

MAVIS PARTNERS アソシエイト 井田倫宏

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