1.アナリスト

印刷

人生のステージ変化を見据えた能力開発の指針

2024-06-28

人生のステージ変化を見据えた能力開発の指針

人生のステージ変化によって失うもの

「企業成長の4ステージ」という概念をご存じだろうか。企業が誕生してから「創業期、成長期、安定期、衰退期」と成長ステージが移り変わり、各ステージの課題に合わせた成長戦略を採らなければならないということを指す言葉だ。ここで説明したいのは、「企業と同じように、私たち人間も人生のステージが進むことで状況が大きく変化し、仕事やプライベートへの取り組み方を変える必要がある」ということだ。私たちは年齢を重ねるにつれて得るものもあれば失うものもある。仕事という観点では、得られるものは「経験や知識」であり、失うものの一つは「仕事に自由に使える時間」である。
大学を卒業したばかりの若手社員は、有り余る時間を仕事に投じることができる。私自身、新卒のときは“残業代が出るか否かに関わらず”仕事がなくとも夜遅くまでオフィスに残って仕事をし、家に帰れば後は寝るだけの生活をしていた。しかし、人生のステージが進み、結婚して子供が生まれ家庭を築くことになれば、「仕事から帰れば寝るだけ」という極端な生活は難しくなる。
もし仮に、家族の誰かが家事育児を全て引き受け、自分が仕事に全てのリソースを投じることができるという環境であれば、逆に独身であるよりも仕事が捗るだろうが、そのような時代が過去のものであることは全ての良識人が承知のことだろうし、私自身も全く望んでいない。話を戻すが、サラリーマンが仕事に使える時間の総量が減るということは、企業で言えば成長投資に使える資金が減少することと同じくらいのインパクトがあると考えてもよい。

経験蓄積に伴う仕事の効率向上とその限界

人生のステージが進むことで仕事に使える自由な時間が減る一方で、経験と知識が増えて仕事の効率が高まっていくことも確かだ。仕事の成果を「仕事の効率(r/h)×仕事にかける時間(h)」とすれば、仕事の効率を高めることで、仕事の時間が少なくなっても成果を維持できそうに見える。実際、「仕事の時間」の減少率よりも、「仕事の効率」の向上率の方が高くなるはずだ。例えば、新卒時代は仕事に12時間を費やしていたとして、家庭を持てば8時間になるとする。「仕事の時間」は30%低下するが、「仕事の効率」の伸び率は2倍、3倍どころではないはずだ。
であれば、次第に仕事が楽になっていくのかというとそうではない。なぜなら、在籍年数が増えて、役職が上がるとともに求められる成果のレベルも上がるからである。新卒とベテランが求められる仕事の成果が同じはずがない。また、役職が上がることで、仕事の性質が変わることもある。日本の企業では役職が上がるとプレイヤーとしての役割が小さくなり、マネジメントとしての役割が大きくなることが多い。工夫を凝らして仕事の効率を上げることができても、役職が変わればゼロスタートとなり、仕事の仕方を新しく学び直す必要があるということだ。
特に、コンサルティング業界では「Up or Out」と言われ、成長し続けることができなければ、職場を離れるべしという文化のファームも存在する。また、「スタッフ」→「マネージャー」→「パートナー」とファーム内での役職が高くなるにつれて求められる能力も変わっていく。昇格するたびに苦労して新しい能力を身に着けて、キャッチアップしていく必要があるのだ。

どんな仕事でも通用する基礎能力への投資が将来あなたを助けてくれる

常に求められる能力が変化していくとすれば、常に余裕がない状態が続くのだろうか。実際、常に高速で上のレベルを目指すキャリアを選択するのであれば、逃れられない運命なのかもしれない。とはいえ、いくらか自らの意識でコントロールできる要素もあるはずだ。ここまで仕事の能力を一括りで語ってきたが、個別の仕事で求められる専門的な能力と、どんな仕事でも共通で求められる基礎能力の二つに分けることができる。後者は陳腐化せず、仕事の性質が変わっても活用できる能力であり、例えば、顧客や上司に好かれるコミュニケーション力や根回し力、数理的な思考力やデジタル技術への理解などが挙げられる。
こういった基礎能力に投資しておくことで、役職が変わり、求められる能力が変わった時でも仕事の負担の大きな変動を抑えることができるかもしれない。人生のステージ変化に対応しながら、持続可能なキャリアを築くためには、これらの能力への投資が助けになるということだ。

MAVIS PARTNERS アナリスト 松村寿明

Contact

お気軽にお問い合わせください

お問い合わせフォーム