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新しいことを始める時こそ「守破離」

2024-01-19

新しいことを始める時こそ「守破離」

何よりも優先されるのは基本の型

私が社会人として初めての転職を経験したのは昨年の12月だった。とはいえ、大学時代も好奇心の赴くままにさまざまな職場で働かせていただき、新しい職場に移ることははじめてではない。私が新しく物事を始める際に心掛けていることが一つある。「守・破・離」である。とくに真新しい言葉ではなく、すでに広く認知されているが、元々は茶道や武道などの修行の過程を示す概念であり、千利休の言葉が語源だそうだ。

それぞれの過程が次のような意味を持つ。
・「守」師や流派の教え・型・技を忠実に守り、身に付ける段階
・「破」他の師や流派の教えも研究し、良いものを取り入れ、型・技を発展させる段階
・「離」身に付けた型・流派から離れ、独自の新しいものを生み出し確立させる段階

私は「守」の過程において、基本の「型」を習得することが、その後の成長の速度と到達レベルを大きく左右すると考える。頭に思い浮かぶ様々な分野の達人たちは例外なく「基本技術」を高いレベルでマスターしている。基本の習得は時に退屈な反復練習を要するが、急がば回れというように、この地道な努力こそが最も効率的に成長する道筋だと考える。なので、私は地味な基礎練習をしているときにもっとも自己成長を感じ、安心感さえ覚える。
「型」はそのあたりに落ちているわけではない。師匠から教えを乞うか、師匠の仕事を見て真似る、場合によっては「型」をまとめた秘伝書があるかもしれない。コンサルティング業界では他業界に比べて言語化することが好きな人間が多いからか、仕事の「型」に関する書籍が多いように感じる。そういった意味では「型」を習得する環境に恵まれているのかもしれない。

「破」はあくまで「守」の後を追う

転職者が前職の経験を活かして活躍しようとするのはよいが、これにも正しい順番があるだろう。型のある人が型を破ることを『型破り』と言い、型のない人が型を破ることは『型なし』と言われる。つまり、基本の型を習得せずにいきなり個性や独創性を求めるのは適切ではないということである。
私も転職したばかりの身であるため、まだまだ「守」のフェーズにいる。転職者が前職のスキルや経験を活かすことはアドバンテージを得る上で重要だが、まずその仕事の理解と基本スキルの習得を高いレベルで行うことがなによりも優先されるべきだろう。
なお、コンサルティングファームでいう「基本の型」とは、リサーチやエクセル、スライド作成などのテクニカルな技術だけでなく、クライアントが何に対して価値を感じてお金を払っているのか、それを踏まえてどう動くか、といった要素の理解も含まれると考える。特に別業界からの転職者は、元いた業界・職種のやり方をアンラーンし、コンサルティング業務との根本的な違いを理解することが求められるのでは
ないか。

「破」「離」は異なる経験が活きる時

「破」は新しいものを取り入れる段階、「離」は新しいものを生み出す段階と説明した。
ここで大事なのは、新しいモノやコトはゼロから生まれるわけではなく、既存のモノやアイデアの組み合わせにすぎないという点である。あのスティーブ・ジョブズは、創造力について「いろいろなものをつなぐ力であり、一見すると関係ないように見える様々な分野の疑問や課題、アイデアやひらめきを上手につなぎ合わせる力」と言っているらしいが、自分の実感と照らし合わせても間違っていないように思う。この段階になれば、全く異なった経験をしてきた人間が有利である。広告業界を大きく進化させたアドテクノロジーはリーマンショックで失業した金融工学のエンジニアが、ITや広告業界に転職して発展させたと言われているが、異なる経験が新しいイノベーションを生んだ好例と言える。
コンサルティングファームへの転職者も、前職で培った独自の知見や実務経験をコンサルティングの仕事と組み合わせて自分だけのスタイルを確立できるのかもしれない。

MAVIS PARTNERS アナリスト 松村寿明

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