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多様性は個人の能力を超える

2023-09-22

多様性は個人の能力を超える

多様性ってなんで大事なの?

最近、“多様性“やら”ダイバーシティ&インクルージョン“という言葉をよく耳にする。多くの機関投資家は、女性取締役がいない企業に対してトップの再任に反対する議決権行使基準を設けているし、日本政府も女性役員比率を30%以上とする目標をプライム上場企業に示したばかり。しかし、一歩立ち止まって、そもそも多様性ってなんで大事なのか?という質問されたときに、皆さんならなんと答えるだろうか?その問いに答えるために、次のクイズを考えてもらいたい。

がんの腫瘍を破壊するにはどうすればいい?

あなたはがんの専門医です。ある患者の胃に悪性腫瘍が見つかりました。場所的に手術は不可能ですが、その腫瘍を取り除かない限り、患者は生きる道がありません。腫瘍はある種の放射線を一定の高濃度で一度に照射すれば破壊することができますが、そうすると、途中にある正常な組織も傷つけてしまいます。放射線量を10分の1程度まで下げれば正常な組織は守れるものの、悪性腫瘍は破壊できません。正常な組織を傷つけずに悪性腫瘍のみ破壊するにはどうすればよいでしょうか?

解決策がひらめいただろうか?この質問をすると、75%以上の人は「わからない、解決策はない」と答えるらしい。
だが、一見関係のない次の問題を出すと、腫瘍問題の正答率が一気に上がる。

あなたは陸軍の司令官です。敵国の中心部にある砦の陥落を目標にしていて、全軍で一斉に砦内部に進軍できれば陥落させることが出来そうです。砦に通じている道はいくつもありますが、道にはそれぞれ地雷が埋め込まれていることが判明しました。大軍が通れば地雷が爆発してしまいますが、どうやら人数の少ない小隊ならば安全に通れるようです。砦を陥落させるには、どうすればよいでしょうか?

さて、今なら腫瘍の問題の解決策が分かるだろうか?

多様性は問題解決力を向上させる

腫瘍問題の答えは、「放射線の照射ノズルを10個に分けて10%の放射線量で一斉に照射する」だ。もちろんこれは架空の問題なのだが、このクイズからの示唆は、軍隊経験者ががん専門医の手助けになることが十分にありえるということだ。人はつい直感的に、「医学の専門知識を一番持っているのは医者なので、医学的な難題を解決するためには医者を増やして考えてもらう」というアクションが正しいと思い込むが、必ずしも専門家を増やすことが解決につながるとは限らない。たとえ専門的な知識を持つ医師を大量に集めたとしても、集まった医師が皆同じ教育を受け、同じ考え方で物事を考えていると、同じような「盲点」に気づかない可能性が高い。一方で、軍隊経験者のように、医師とは異なる教育を受けて異なる枠組みで物事を考える人がいれば、あっという間に難題の解決につながる可能性がある。

いかに異なる視点を持つ人を集められるか

一口に多様性といっても、性別や人種、年齢などの「人口統計学的多様性」と、前述の質問で示したような異なる考え方、ものの見方をする「認知的多様性」に分かれると言われている。もちろん、性別や人種、年齢などの違いがものの考え方に及ぼす影響が大きいので、2つの多様性は全く異なるものではないのだが、“多様性”といったときに大事なのは「認知的多様性」なようだ。たとえ性別や人種、年齢が異なる人を集めても、考え方が同じ人ばかりだと、多様性がもたらすメリットを享受できない可能性が高い。

最後に一つ、面白い実験を紹介する。あるビジネススクールでグループワークを行った際に、仲の良い友人だけのグループと、初対面の人ばかりのグループを構成した。結果は、多様性のある後者のグループの正解率が高かったのだが、興味深いのはその議論過程だ。前者のチームは同じような考えを持つ友人同士なので、メンバーの意見に反対することが少なく、何を言っても「そうだそうだ」と同調してくれみんなが気持ちよく議論でき、結果発表されるまで自分たちの回答に自信満々だったそうだ。一方で、後者のチームは反対意見も多く出たので議論に大変な思いをし、自分たちの回答にも最後まで自信が持てなかったそうだ。画一的な集団は、否定されることもないから“自分たちが正しい”と思いこみやすい。一方で、多様性のある集団は多様な視点で意見が出るからこそ、産みの苦しみが大きい。見かけ上、組織の多様性が上がったとしても、あまりにも気持ちよく仕事ができている場合には、多様な意見に耳を貸せていないのかもしれないと注意すべきなのかもしれない。

MAVIS PARTNERS マネージャー 渡邊悠太

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