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使えるものを作らないと価値がない

2023-09-15

使えるものを作らないと価値がない

コンサルティングは何を売っているの?

言語化が難しいお困り事に関するご相談を受けて、提案活動をしていると、「プロジェクトの進め方に関してよく分かりました。最後に、成果物イメージも見たいです」と言われることがある。発注する側としては、高いお金を払って最終的に何が受け取れるのか気になるのは当然だろう。そう言われると、その時点で想像している成果物のまさしく“イメージ”を絵にしてお伝えするようにしている。一方で、実は、頭の中では、「成果物イメージなんて、この時点であんまり意味ないんだけどな」と思っていたりする。
もちろん、ご依頼事項がシンプル且つ明確で、我々コンサルが何を検討して答えを出せばいいか明瞭な場合は、成果物イメージをつくることは簡単だ。着地が見えているので、最終的にこんな答えが出てくるはずですよ、と仮を示すことは難しくない。ただ、ご依頼事項のゴールも曖昧で、これからの検討次第で、右左どっちにも転がり得るような状態で、「成果物イメージも見たいです」と言われると困ってしまう。プロジェクトのゴールも明文化できていない状態では、まずはそこから検討しなければいけないからだ。
また、同年代の友人からは、「コンサルティングって何してるの?全然イメージ湧かないんだよ。何をしてお金をもらってるの?」と聞かれることがある。やはり、“コンサルティングの成果物”というものが分かりにくいのだろう。「口頭のアドバイスだけでお金をもらうの?」とも聞かれるが、私の中では、アドバイスだけでお金を頂戴する職業を“アドバイザー”と言い、“コンサルタント”とは区別している。私の定義では、“コンサルタント”も、しっかり成果物をつくって、納品して、報酬を頂戴している。

家の設計図をつくっているような感じ

では、コンサルタントの成果物とは何か?一般的には、「報告書」ということになるだろう。ただ、日々のクライアントとの議論で、クライアントが示唆を得たならば、それもコンサルタントが提供している付加価値であって、報告書を最後に書いて、それと引き換えに対価を頂いているわけではない。これまでの議論の積み重ねが、報告書という形に集約されているだけだ。
日々のクライアントとの議論においては、ディスカッションパートナーとなり、クライアントに気づきを与えることもあるし、こちらが構築した仮説を提示して妥当な方向性を示すこともある。また、調査・分析をした検証結果を伝えて、クライアントの間違った仮説を修正し、ネクストステップを討議することもある。このように、価値の出し方には色々な側面がある。
そして、報告書の中に、これまで産出した価値群を載せて、納品するのだ。報告書は、たとえるなら、家の設計図のようなもの。これまでクライアントと議論した内容や、検討してきた内容を、1つの図面に反映させる。家のリノベーションをしたことがある人なら分かると思うが、自分たちの理想や要望、現状の課題感を建築士やデザイナーに伝えて、試行錯誤しつつ、最終的に1つの図面が出来上がったはずだ。コンサルティングの報告書というのは、なんとなくそれに近しいように思う。家のリノベーションを依頼するとき、要望だけ伝えて後はお任せということはまずないだろう。幾度と打ち合わせをして、あれこれやりとりがあり、ようやく自分たちにフィットした設計図が出来る。コンサルティングの場合、それが頻度高く濃密で、そこで対価を得ているようなものだ。

形がないからこそ想像力を要する

また、コンサルティングの成果物の場合、“設計図”たる報告書をつくるときに留意すべきことがある。家のリノベーションのときは、たいがい家の持ち主が発注して依頼しているはずなので、出来上がった設計図は、その持ち主が受領し、理解し、納得すればよいだろう。それに対して、コンサルティングの場合は、その成果物である報告書を、プロジェクト責任者だけが受け止めればいいというものではない。プロジェクト後は、プロジェクト責任者が、社長に成果報告をするかもしれないし、外部に対して説明をするかもしれない。そして、その「報告」や「説明」は、何かしらの意図があって行われるものであり、相手に判断と行動を促すものであるはずだ。
とすれば、プロジェクトの中で産出した価値をむやみやたらに報告書に詰め込めばよいということではない。「誰が、いつ、どういう場で、誰に対して、何のために使うものなのか」を限界まで想像して、それに最適化した代物である必要がある。
報告書は言ってしまえば紙ペラであって、それ自体に価値があるわけではない。これまで議論してきた成果に価値があるはずだ。ただ、それが目に見えない。見えないからこそ、クライアントにとっての価値が何か見誤ることは許されないし、それをどう報告書という媒体に載せるかが肝になる。結局、クライアントが使えるものを作らないと、我々の仕事は独りよがりで終わってしまうのだ。

MAVIS PARTNERS プリンシパル 田中大貴

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