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慶應の甲子園優勝に見る「帰属意識」

2023-08-25

慶應の甲子園優勝に見る「帰属意識」

“帰属意識が高い“といわれる慶應

つい先日甲子園の決勝戦が行われ、夏の連覇を狙う仙台育英と107年ぶりの優勝を狙う慶應義塾の一戦が行われた。結果は皆さまご承知の通りだが、慶應が優勝する前から、“ステレオタイプの高校球児“とは異なる部員たちの姿や、エンジョイベースボールを掲げて野球を楽しむ部の方針などに注目が集まっていた。一方で、慶應野球部が勝ち進むにしたがって部員たちの姿と同じくらい注目を集めていたのはその応援の人数の多さではないだろうか。甲子園の応援席を埋め尽くさんばかりの慶應OB・OG・現役生の数。そして実際に決勝戦では、まるで慶應のホームタウンであるかのような大歓声。これは仙台育英の選手たちもやりにくかっただろうな、と後からVTRを見て感じた。
私は慶應大学の出身ではあるが大学からの入学なので、“慶應義塾高校”とは直接的な関係性はないが、それでもなんとなく身内が優勝した感じがするし、私の周りの先輩後輩はSNSでも大騒ぎで、仕事を休んで甲子園に駆け付けている人もいた。
過去に早稲田実業が優勝した時に、早稲田大学出身者はここまで盛り上がっていたか?と思うとそうでもなかったような気もする。
こんな状況を見て、慶應は帰属意識が強いとか、三田会の結束力がすごいとよく言われることを思い出した。

帰属意識と拠点意識

果たして、帰属意識とは何だろうか。もともとは心理学用語で「ある集団に属している、またはその集団の一員であるという意識や感覚」のことらしい。最近では、社員の帰属意識が高い方が、離職率が下がり、生産性が上がるとかなんとか言われている。
一方で、帰属意識について調べていた時に面白いコラムを見つけた。2021年2月9日の日経新聞で法政大学の総長の田中優子さんが書かれていたコラムで、「帰属意識」と「拠点意識」について語られている。「拠点意識」という言葉を初めて聞いたのだが、調べてもこのコラム以外ヒットしないので、どうやら造語のようだ。なかなか興味深い指摘だったので一部引用する。


ミュージアムをつくる 法政大学総長 田中優子
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFG292890Z20C21A1000000/
個人の組織に対する態度には、「帰属意識」と「拠点意識」があると思っている。帰属意識というのは、所属していることに自らのアイデンティティを強く感じ、極端な場合には組織にしがみつくことで、自分をようやく保つような意識のことだ。

例えば日本人であることに帰属意識をもち過ぎると、日本が他国から批判された時には、それに根拠があるかないか検証せず、まるで自分が侮辱されたような気がして怒り狂う、ということが起こる。「拠点意識」を持つ人の場合は、自分が生まれ育った「拠点」ではあるが、自分自身ではないことを知っており、その拠点を居心地良くしていくことが大切なので、批判は積極的に受け入れ、改善に役立てるだろう。

田中優子さんの定義を言い換えると、「帰属意識は受動的で、拠点意識は能動的」ということなのかなと思った。とすると、慶應OB・OGは必ずしも慶應という組織にしがみついているわけではなく、自分が学び育った母校をよりよくしていこうというとか、盛り上げようという拠点意識が強く、だから寄付を募れば巨額の寄付が集まるのか?とも思ったりした。

拠点意識の高め方

仮に、帰属意識と拠点意識というもの田中優子さんの定義通り別々に存在するのであれば、企業においても高めるべきは帰属意識ではなく拠点意識なのだろう。とすると、巷でいわれているような「帰属意識を高めるために、福利厚生をよくしましょう」とか、「給与体系を見直して待遇改善しましょう」というのは、組織にしがみつく「帰属意識」を高めてしまいかねない。
「拠点意識」を高める方法に正解はないと思うが、なんとなく拠点意識が高そうな外資系戦略コンサル会社は、入社時に選抜されたメンバーが、厳しい激務に耐え仲間意識が強化され、卒業後のアルムナイ制度がしっかりしているイメージがある。
中学受験の難関校もなんとなく拠点意識が強いイメージがあるが、同様に選抜されたメンバーが同じ釜の飯を食い、卒業後のOB・OG組織がしっかりしているイメージがある。私の前職の証券会社も結構拠点意識が強いイメージがあるが、同じような傾向がある。組織にしがみつく「帰属意識」ではなく、「拠点」として組織に対するエンゲージメントを高めるには、今いる社員同士が“戦友“として切磋琢磨する環境も大事だが、入社前後のかかわり方も重要なのかもしれない。

MAVIS PARTNERS マネージャー 渡邊悠太

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