4.プリンシパル
印刷毛並みを超えるには
2022-09-30
育ってきた環境が違う?
「きみは、ちょっと毛並みが違うと思うから、大変じゃないかなぁ。」
某先輩から言われた言葉だ。その人はとても聡明で人柄もよく、私も可愛がってもらったので、意地悪で言った発言ではないと思う。
私は、大学を卒業して、新卒であるコンサルティング会社に入社した。当時から学生に絶大な人気があった企業で、いわゆる就職偏差値的なものも、とても高かった。選考で会う学生も、みんなキラキラしていたし、一言話せば本当に賢い人なんだなぁと思わされた。就職活動塾なるものに通っている人も多かったし、有志の起業団体に属している人もいたし、ビジネスコンテンストに出て成果を出している人もいたし、自分とは育ってきた環境がまるで違う人たちだった。
そんな企業に、負けん気だけで挑んだところ、なぜか自分がオファーをもらうことが出来た。「なんでお前が?」と、あまり好きじゃなかった就活時代の知り合い達には不思議がられたが、ラッキーな部分もあったのだろうけども、書類、小論文、面談、面接、インターンを経てのオファーだったので、完全にラッキーだけではなかったと思っている(そう信じたい)。そして、色々考えた結果、他社からもらったオファーと迷うこともあったけれども、周りの勧めもあり、結局、その企業に入社することに決めた。そして、当時、流行っていたSNSで、知り合いに対して、就職活動を終えた報告をしたときに言われた言葉が、冒頭の「毛並みが違う」だ。
確かに自分は違うようだった
その言葉の意味を入社後に日々感じるようになる。なんか浮いてるように感じるのだ。みんな、特に新卒同期は、親御さんも立派で、とても良い家庭で育ったんだなと思わされる上品さがあったし、話していても賢いなぁと思うし、海外経験も豊富で、自分とは全然違う経験をしてきてここにいるんだなと思わされた。「あぁ、これが毛並みの違いってやつか…」と嫌でも感じるようになる。会社に入って、家柄や育ちの違いを感じるとは自分でも驚いた。一方で、「なんでそれが感じられないの?人の気持ちが分からないの?」と、会社の人たちに違和感を持ってしまうことも出てきて、あれ、自分は価値観もちょっと違うのかなーと思い始めるのに、たいして時間は掛からなかった。(悪い人たちではないのだけども…)
そして、私のことを全然評価していないなーと思わされる上長もいれば、逆になぜか評価してもらえてるのかなと思える上長もいて、こういう環境でも、自分がただ“違うだけ”で、ダメというわけじゃないのかと気付かされたのは良い経験だったと思う。だから、今でも、どんなに経歴がすごい人でも、業績がある人でも、その人に対して畏怖するということがあんまりなくて、「この人に無いものを自分は持っているはず」という謎の自尊心を今でも持てているように思う。
オファー面談で言われた言葉を思い出し
結果、自分の求めていたコンサルティングとはギャップがあったこと、上述のような周りの人と協調することにストレスを感じてしまっていたこと、“何か違う感”をずっと抱えてしまっていたこと等あって、この会社は2年目で早々に退職させていただいた。辞めるときは、周りからも相当驚かれたし、有り難いことに「勿体ないよ」と言われることもあった。でも、感覚的に、このまま続けても、自分が求めていたものは得られないような気がしたので、迷うこと無く辞めた。
果たして、自分がコンサルタントという仕事に合っていなかったのか、それとも、自分があの環境に合っていなかったのか。退職後に時間をかけてじっくり考えた。その時、思い出されたのが、入社前のオファー面談で言われた言葉だった。
当時、自分にオファーが出るとは思っていなかったので、面談時に半信半疑な顔を自分でもしていたと思うが、採用担当から言われたのが、「面接での評価は正直そこまで高くなかったけども、インターンを通して、きみは誰よりもグッと深く考えることが出来ると思った。良いコンサルタントになると思う」という内容だった。それを改めて思い出し、誰よりも深く考えることが自分の強みなのかもしれないと思い、もう1度、コンサルタントをやってみようと決意して、別のコンサル会社で、新たにコンサル人生を歩むようになった。
今ある自分の姿と形で最善を尽くす
そこから、少しずつ自分らしいコンサルティングを模索していき、それなりに在籍していた各社で評価していただき、気づけば数社を経験して、MAVIS PARTNERSとして独立するまでになったのだから、人生は分からない。自分の特長を捉えてから、吹っ切れたというか、とても自由にコンサルティングが出来るようになったと思うし、それは、1社目を退職後に、「自分はコンサルタントであるべきか?」を問い続けた期間があったからこそだと思っている。
これまで新卒で入社した会社に限らず、業界で多くの優秀な“毛並みの良い人たち”を見てきた。そんな私が、今だから言えることは、毛並みの良さが、コンサルタントの腕を決めるわけではないということ。クライアントのために考えて考えて、クライアント以上に考えて、クライアントの問題解決に貢献すること。それが出来るのであれば、当然にして毛並みは関係ない。一方で、逆の言葉で言うならば、周りよりも毛並みが悪いと自覚しているのであれば、それをカバーするぐらい頑張るしかない。私の場合は、それが深く深く考えることだった。
大人になってしまえば、毛並みはもう変えられない。今ある自分の姿と形で戦うしかない。違いがあったとしても、今ここで同じ土俵にいられることに自信を持ちつつ、今に至るまでの自分のこれまでの環境と運に感謝しつつ、周りと比べたときの自分の良さを追究して、やるべきことを人一倍やる。さすれば、毛並みなんてものは超えられる。
MAVIS PARTNERS プリンシパル 田中大貴