2.アソシエイト
印刷自信が無いからこその論点設計
2022-04-29
なぜ論点設計をするのか
私は、プロジェクト立ち上げや、会議の事前準備にあたって、事前の論点設計に結構な時間をかけている。コンサルを始めてからずっと、論点設計に時間をかけることは当たり前のことだと思いこんでいたが、「なぜ時間をかけて論点を設計するのか?」について考え直すきっかけとなる出来事があった。それは、コンサル歴20年を超える大先輩(弊社の人間ではない)と一緒に仕事をしたときのことである。
その先輩コンサルタントの指揮するプロジェクトでは、会議に際して、論点設計に時間をかけることはせず、そこまでの検討成果をとりあえず資料に落として、会議での議論は、その場の話の成り行きにまかせるスタイルだったのだ。個人的には違和感と不安感があったものの、そのやり方に従って進めていたところ、何の問題もなくプロジェクトは進行していったのである。
これだけ書くと、論点設計など不要と思われるかもしれないが、実情は異なる。論点が無くても問題なかったのは、実は、プロジェクトの構成メンバーが経験豊富かつ非常に優秀なコンサルタントばかりだったからなのである。論点など細かく決めていなくても、頭の中でなんとなく何に解を出さなければいけないのかは持っていて、その場その場で問いを設定し、確からしい方向性に議論を持っていくことができたのである。
自分も同じようなスタイルでやろうと思えば、できないことも無いが、自分の瞬発的な思考力に、ある意味フリーハンドで臨むほどの自信はまだ無い。だからこそ、自分にとって論点設計が大きな意味を持っていると気づいた。
J2レベルで論点設計無しは怖すぎる
会議に沢山の関係者を集めて、とりあえず意見を言ってもらうものの、会議の主催者からは「検討します」ばかりで、何も結論が出てこない。そんな消化不良の会議を経験したことのある人は多いと思う。そういった際に共通しているのは、解を出すべき論点がはっきりしていない、もしくはその論点に解を出すためのプロセスが不明確ということだと感じている。
趣味でよくサッカーのJリーグを観戦しているのだが、特にJ2リーグの場合、シーズン前の順位予想と、シーズン後の結果が大きく異なることが多い。順位を予想する上では、各チームに所属する選手の能力が最も大きな評価材料になるため、能力の高い選手を沢山獲得したチームが、必然的に上位に予想されるのだが、チームの予算も選手の能力も貧弱なチームが大波乱を起こす光景を何度も見てきた。一方で、J1リーグではそのような大波乱が起きにくい。それはやはり、J2レベルでそこそこ高い能力を持った選手を寄せ集めても、戦略がしっかり浸透していなければ、勝ち切ることは難しいということだと思っている。構成する選手のレベルが芳しくないからこそ、指揮官の手腕が問われるのである。
プロジェクトでも同じで、やはり、検討メンバーの能力に相当な自信がない限り(サッカーで言えばJ1レベルの選手が揃っていると言い切れない限り)、論点設計はしっかりして、会議に臨んだ方が良いと思う。
謙虚な姿勢で仕事をする
よく「準備に時間をかけるよりも、とりあえず議論を始めた方が良い」とか「メンバー同士の暗黙知で乗り越えられる」などという言葉で、会議の事前準備を否定されることがあるのだが、前述の理由で、やはりそれは暴論だと思っている。特に新しいことを始めたり、慣れないテーマについて検討したりするときには、論点設計を含む事前準備の重要性は増す。
あるクライアントは、業界においてはトッププレイヤーで、通常業務においては、阿吽の呼吸で事がうまく進んでいたものの、何か新しいことに挑戦しようとすると、検討が頓挫してしまうことが多かった。これは私の妄想も入っているが、通常業務でのメンバーの能力を過信して、新しいことを始める際にも、同じように阿吽の呼吸でうまくいくと信じていたのではないかと思っている。
サッカーもそうだし、野球でもそうだが、現役時代に活躍した人が、監督になってチームを没落させることは少なくない。一流のメンバーでやっていくことに慣れている人や集団こそ、新たな挑戦で失敗するリスクも大きいのではないだろうか。
異業種M&A、クロスボーダーM&A、新たな顧客層の開拓などなど、多くの日本企業は新たな挑戦をしていかないと、今後の世界を生き残れないのは言うまでもない。自分自身も含めて、己の能力を過信しすぎず、謙虚な姿勢で、仕事に取り組んでいきたいと思っている。
MAVIS PARTNERS アソシエイト 井田倫宏