3.マネージャー
印刷“価値”と“価格”の話
2024-02-09
Hermèsの値上げ
言わずと知れた超高級ブランドHermèsが2月1日に値上げされた。驚くべきはその値上げ幅で、10%~20%定価が上がった。例えば、ただでさえ高いバーキンは、約150万円の定価だったのだが、約175万円に値上げされたようだ。この値上げの知らせを聞いて、1月中はHermèsのどこの店舗も長蛇の列だった。休日ともなれば、店舗に入るのに2~3時間待ちは当たり前で、2~3時間待って案内されても目当てのカバンがないのも当たり前。それでもなお、人々は毎日毎日熱心に足を運び、値上げ前に目当てのカバンを手に入れようと足繫く通っていた。人によっては、平日の朝、店舗の開店2時間前くらいから並び始める人もいたという。どうやら「店舗の順番待ち代行」のような業者(?)もいたらしい。
あまりよく知らなかったのだが、Hermèsのような高級ブランド店は、商品の入荷タイミングが決まっておらず、朝なかったカバンが昼に行くと入荷されていたり、夕方に入荷されていたりするらしい。なので、熱心な信者は、朝店舗に行って、少し時間を置いて同じ店舗に再訪したり、別の店舗をはしごしたりと一日中通い詰めることもある。Hermèsのある店舗では家族連れの子供が「ママまたHermès入るの~?」という声が聞こえたとか聞こえないとか・・
モノの“価値”と“価格”
1月中にHermèsに熱心に通った人たちのように、欲しかったカバンを値上げ前に手に入れたいという気持ちはわからなくもないが、結局その人たちは、2月以降でも目当てのカバンを見つければ買うのである。なぜならば、目当てのカバンに価格以上の価値を感じているからだ。実はHermèsをはじめとする高級ブランドの値上げは珍しいことではなく、近年では製造コストの上昇や、為替レートの変動などもあり、毎年毎年10%程度値上げがある。なぜ、高級ブランドがそれだけ値上げできるのかというと、それでも買う人達がいるからだ。つまり価格以上の価値を感じている人たちが多いのである。“価値”と“価格”の違いを表したものすごくわかりやすい例といえる。価格は自分が差し出すもので、価値は自分が受け取るものだ、と言われることがあるが、高級ブランド大好き人間たちは、まさにそのブランドに価格以上の価値を感じて、大金を差し出しているのである。“価値”の感じ方は人によって違うので、価格以上の価値があると思えば買うし、“価格”以上の“価値”がないと思えば買わない。
企業価値と時価総額
さて、話は変わるが、以前、とある企業の方とディスカッションしていた時に、「企業価値と時価総額(いわゆる株価)ってどう違うんでしょうかね?」と質問されたことがあった。ファイナンス的には、「企業価値は企業の株式価値と負債価値を合計したもので、株価は株式価値を株式数で割ったものである」とか言われるがあまりピンとこない。この時なんと答えたか正確には忘れたが、「企業価値は会社が持つ経済的な価値を論理的に示せるもので、株価はあくまでその時にたまたまついている値段でしかない。」というような話をした気がする。この場合の、“価値”と“価格”は、受け取るものと差し出すものという関係ではないが、企業価値も人によって感じ方が異なるので、株価以上に価値があると思えば買うし、株価以上の価値がないと思えば買わないし、売られる。
企業のIRの仕事は、本質的には 自分たちが思う正しい自社の価値を伝えること と言われる。企業に対する“価値”の感じ方は人それぞれになってしまうからこそ、「自分たちは自社の価値をこれくらいだと感じていますよ!」ということを、客観的・論理的に伝えることがIRの役割だ。
価格以上の価値を
Hermèsの例もそうだし、企業価値と株価の違いもそうだが、価値と価格の違いをしっかりと意識することは大事だなと最近改めて思う。Hermèsは自分たちに価格以上の価値があると思っているから堂々と値上げしているわけで、自分たちの価値をうまく伝えることができている。
コンサルの仕事でも価値と価格は意識しなければならないなと思う。クライアントに提案するときには、見積もりをするので“価格”を工数ベースで考える。日々の仕事に追われているとどうしても、「このくらいやっておけば対価には見合っているだろう」とか思ってしまう瞬間もあるが、価格以上の価値を出さないと感謝されないし、ファンにはなってもらえない。「自分たちには価格以上の価値がある」ということを感じてもらうにはどうすればいいか、どうすればチームとしてクライアントに認められるのか。日々振り返りたい。
MAVIS PARTNERS マネージャー 渡邊悠太