2.アソシエイト
印刷教科書のその先
2021-11-19
定石だけでは戦えない
9月に初めての子供が生まれて、毎日子育てに奮闘しているが、分からないことばかりなので、インターネットで「赤ちゃん 寝かしつけ」や「赤ちゃん 便秘解消」などと調べて、出てきたやり方を実践してみるが、往々にしてうまく行かない。そこで、インターネット上に書かれているやり方に一工夫加えて実践してみると、効果的であることが多い。最近、仕事でも似たような場面によく遭遇する。
コンサルタントとして働き始めて約3年半。資料作成や構造化、あるいはよく使われるフレームワークなど、コンサルタントが知っておくべき教科書的な知識は、一通り身につけることができたと思っている。一方で、プロジェクトの中でもマネジメントロールを任せられるようになり、検討や議論の仕方等を自ら考えることが多くなったが、教科書的な知識だけでは太刀打ちできないケースが非常に多い。教科書に載っているような定石を使っても、検討が機械的になってしまい、その時々の状況に合わせた検討が出来ないということを痛感している。
実務では前例の無いことばかり
学生時代に数学の塾講師アルバイトをしていた。受験数学にはいくつもの定石が存在していて、その定石を知ってさえすれば解ける入試問題も多い。一方で、所謂難関校の入試問題の場合、前例の無い問題が出題されることが多いため、定石だけでは太刀打ちできないケースも多い。優秀な学生でも、受験生になってこのような前例の無い問題で躓く人は少なくない。
会社の経営も前例の無い課題に向き合う場面が多く、定石をそのまま当てはめても役に立たないと思っている。
経営戦略を考える際の有名なフレームワークとして「アンゾフのマトリックス」というものがある。これは、縦軸に「市場」、横軸に「製品」を取り、それぞれ「既存」、「新規」の2区分を設け事業モデルを4象限で整理したもので、事業拡大の方向性を議論する際にはよく使われる。実際に我々も使ったことがあるが、教科書に載っている4象限ではその時々の状況に合わせた検討をすることは出来ず、必ず状況に応じたカスタマイズをしていた(4象限ではなく6象限あるいは10象限とマトリックスを拡げる等)。
たしかに教科書は重要だが、依存すると思考が停止する
とは言っても、定石は重要で、先程例示した「アンゾフのマトリックス」など、多くのフレームワークや考え方は、工夫を加えることで、時々の状況に適合させられると考えている。また、定石を知っているからこそ、検討の切り口が見えてくることも多い。例えば、ある業界の市場環境を調査して、自社がどう参入すべきかを検討したいときに、有名な3C分析や5F分析というフレームワークを知っていれば、検討すべき論点が浮き彫りになってくる。
問題は、そういったフレームワークに囚われすぎて、思考が停止してしまうことだと思っている。
私自身の経験として、「今回は戦略の方向性検討だからアンゾフのマトリックスを使おう」とか「市場環境を分析するんだから3C分析でよく検討される論点を議論すればいいよね」とか、短絡的に考えて、その時の状況を無視した検討をしようとしたことが何度もある。特に、様々なタスクを抱えていて、余裕が無いときは、思わず短絡的に考えて楽をしようとしてしまうので気をつけている。
M&Aも教科書は山程あるが・・・
M&A関連の教科書は、世の中に数え切れないほどある。戦略フェーズからディール、PMIフェーズまで、それぞれの領域の専門家が非常に分かりやすく定石をまとめてくれている。ただし、M&Aも他の経営課題と同様に、前例の無い場面に遭遇することがほとんどなのは言うまでも無い。
一見やり方が確立されているかのように見えるデューデリジェンスであっても、ターゲット企業の状況や世の中の情勢によって、検討すべき論点は大きく変わるし、PMIに至っては、同じ会社であっても時期が変わることでやるべきことが変わってくる(買収直後のお統合と買収から2~3年後の再統合では全く性質が異なる)。
教科書が多いからこそ、私自身も、M&Aに関わる立場として、定石に囚われた検討をしてしまわないように心がけていきたい。
MAVIS PARTNERS アソシエイト 井田倫宏