4.プリンシパル
印刷強みは何ですか?
2021-09-10
強みが不可解
昔から、不思議に思っていたこと。「強み」という言葉が軽々しく使われ過ぎなのでは?就職活動の面接でも、「あなたの強みは何ですか?」という質問は頻出だし、「私の強みは~」というアピールも常套文句だろう。ではでは、その「強み」とはなんぞや。「強い」の反対は「弱い」で、どちらも程度感を表す形容詞だ。その程度感が私にはよくわからない。就職活動の面接で、強みを聞かれた時には、「何と比べたときの強みですか?」とよく聞き返して、面接官から嫌な顔をされてしまっていたが、未だにそれは変わらない。
コンサルタントとして、経営課題に関してご相談を受けて、あれこれ議論していると、「それでは、提案してもらえますか?」と言われることがある。ありがたく提案の機会をいただき、「こういう進め方で検討をすれば、その経営課題は解決できると思いますよ」という内容を提言するわけだ。その内容が腹落ちされれば、案件を発注していただけるし、そうでない場合はそこでおしまい。提案自体は無償なので、発注されなければ、金銭は発生しない。
なので、「ここはもう少し説明を足してもらえませんか?」とか、「具体例をつけてもらえませんか?」という追加要望に関しては、出来る限り対応させていただくわけだが、毎回困ることが1つある。それは、「御社の強みを書いてくれませんか?」という場合。「強み」過敏症の私には、そこで筆が止まってしまう。何と比較した場合の強みを書くのか。そして、仮に比較対象を設定したところで、それを自分が強みとして言うことに納得性はあるのか。強みは自分で言うものではなく、他人が評価して感じることではないか。そんなことが頭を駆け巡ってしまう。とはいえ、社内稟議を通すためには、上を説得する材料として、発注先の「強み」を説明したいという気持ちも分かる。でも、それだったら、そもそも私にご相談してきた理由をそのまま書けばいいじゃないか、なんて気にもなる。
当たり前なことだらけの強み
どうして、クライアントからご相談をいただけるのか。そして、お仕事の発注がくるのか。リピーターも多いのか。そこらへんを自分なりに振り返るが、大して特別なことがあるわけでもない。素晴らしい能力があるわけでも、すごい肩書があるわけでも、なんでも無い。が、大学を卒業してから、ずっとこの仕事をしているし、それなりにコンサルタントとしてはキャリアを積んできた。色々なコンサルタントと触れ合って、一緒に働いてもきたが、彼ら彼女らとの違いでいうと、「強み」みたいな特徴は少し言えるかもしれない。
第1に、当たり前なことを徹底していることだ。プロジェクトの提案書では、どういう手順で検討をしていくか明確に示す、定例会や報告会は事前に設定しておく、会議の前日には議題や資料を共有して議論の準備をしてもらう、検討すべき論点は事前に整理して、それらに対して仮説は持っておく、課題解決ストーリーはプロジェクト序盤で仮説として描いてしまう、報告書はサマリー1-2枚で説明できるようにしておく、報告会は半分以上は質疑応答・議論に時間を充てる、必ずクライアントにとってのSomething newを仕組む…等など。言われれば当たり前なことだが、意外と全部確実にやりきっているコンサルは少ないように思う。
第2に、状況変化に応じて融通が利くことだ。短くても、プロジェクトは3ヶ月。長い場合は数年にわたる場合もある。なので、当初の提案書の内容通りに進まないケースだってある。思いがけない事象があり、軌道修正が必要なこともあるし、クライアント側の要望で、プロジェクトの目的を変えたいと言われる場合もある。コンサル側としては、いわゆる“スコープ外”のことはやりたくないもので、スコープがブレると極度に嫌がるコンサルもいる。一方、私の場合は、スコープが変わることは前提としているので、こちらの時間が許す限り、臨機応変に対応するように心がけている。
第3に、クライアントのお困り事に対して真摯に全力で取り組むことだ。これも当たり前と言われたら何も言えないが、どんなに難しいことでも、あらゆる手段でトライして突破口を探す努力はしている方だとは思う。結果として、自分が担当していたクライアントから、「もっとこうできたのでは?」という類の指摘を受けた記憶がない。結果が芳しくなくても、「ここまでやって考えても無理なら、誰がやっても厳しいだろうね」という反応はあったが、それはそれで、見えていなかった難しさや課題が判明して感謝されたし、次の仕事にも繋がった。
職業コンサルとして
自分の「強み」を考えてみたが、いたって普通なことしか出ない。究極、仕事が好きだし、仕事に真面目なんだろう。自分の仕事は、職業倫理としては医者と同じだと思っている。困ってる企業がいて、そこから相談されれば、そのお困り事解決に全力を尽くす。それ以上でもそれ以下でもない。そこに個人的な知的好奇心とか利己心とか虚栄心はなく、ただプロとして目の前の仕事に対峙するだけ。弊社の採用面接で「自己成長を目的にしたら、この仕事は続かないよ」とよく言うのだが、それは医者も同じだろう。目の前の患者さんを救うことが仕事なんであって、それ自体に価値を見出すことができなければ続かないのではないか。コンサルも、クライアントのお困り事解決自体に価値がある。その先が何かあるわけではない。解決してバンザイ、以上。
また、「この領域ならこの人しかいない!」とか、「XXXにかけては天才的!」とかも目指していない。そういう局所的な貢献がしたいのではなく、ただただ、当たり前にちゃんとしているコンサルを目指したい。どんな案件でもクライアントの期待値+1mmを必ず超えられるコンサルでありたい。どんなヘンテコリンなテーマだったり、こじれた問題だったりしても、「あそこに頼めば、なんとかしてくれる」という会社にしていきたい。M&Aはお困り事が多いテーマだ。だから、弊社の存在意義がある。
MAVIS PARTNERS プリンシパル 田中大貴