4.プリンシパル
印刷コンサルタントはクライアントに100%尽くすべきか?
2020-05-15
耳を疑ったクライアントからのご要望
外出の用事を済ませ一段落つき、クライアント先近くのカフェで仕事をしていた。電話が掛かってきた。先日、あるプロジェクトのご提案を差し上げた先のクライアントからだ。電話が直に掛かってくるということは、提案内容が通ったと考えてよいだろう。提案が通らなかった場合は、たいていメールでお断りされるものだ。私は心なしか高揚しながら電話を取った。
「先日提案してもらった件、お願いしようと思っています。ただ、本件は、なるべくダラダラやってもらえますか?」
「ありがとうございます!はい、本件しっかりやら…ダラダラ…ですか???」
我々、戦略コンサルタントの仕事といえば、短期集中の問題解決、一気呵成が当たり前だった自分にとって、動揺を隠せなかった。
コンサルタントたるもの1案件専従が美徳?!
コンサルタントに支払うFeeは、成功報酬式にしていない限り、至極シンプルである。単価×工数で決まる。単価は、コンサルタントの役職別に設定されており、工数は、プロジェクト期間における稼働率で決まる。
例えば、時給2万円のコンサルタントが、3ヶ月間、100%稼働する場合は、単価(2万円/時間)×工数(160時間/月×3ヶ月)=960万円となる。ここに管理費を上乗せして、プロジェクトFeeとして請求することになる。大手の戦略コンサルティングファームなら、数値感こそ違えども、計算方法はたいてい同じだ。
私は上記の稼働率について、コンサルティングをするうえで1つの強いポリシーを持っていた。
「少なくとも、マネージャー未満の若手コンサルタントは1案件に専従となり、100%稼働すべきである。案件を掛け持ちするなんてクライアントに失礼だ。戦略コンサルタントたるもの、専従することで、真の” Client interest first”が実現できるのだ」と。
そこには、「クライアントはコンサルに短期集中で問題解決してほしいはず」、「クライアントはコンサルの時間を100%使って尽くしてほしいはず」という身勝手な前提があった。
クライアントの声からハッとしたこと
このような考えを持っていた私には、冒頭の“ダラダラ要望”に驚きを隠せなかったのだ。ただ、クライアントの話をよく聞いてみると、「依頼内容は同じでも、Feeは変えずに、期間を長くしてくれた方が、コストパフォーマンスが良く見えて、社内稟議を通しやすい」とのことだった。なるほど、確かにと思った。
それから、他のクライアントにも、プロジェクト期間と我々コンサルタントの関わり方について要望をヒアリングしてみた。あるクライアントからは、プロジェクトは通常業務と平行して参加するため、なるべく負荷が一気集中しないように平準化したいという要望があった。また、別のクライアントからは、プロジェクト期間が長い方が考える時間が増えるので、消化不良を避けられるかもしれないとも言われた。究極的には、クライアントにとって、コンサルタントが自社のためにどれぐらい時間を使ってくれるかは些末なことで、お願いしたことが期待以上に仕上がることに尽きるのだろう。クライアントはコンサルタントに専従を必ずしも求めていなかったのだ。
コンサルタントが必ずしも専従しないことで、融通も利くようになり得る。これまで所与と考えていた稼働率が変数となり、週1回だけの関与、週半分だけの関与など、コンサルティングスタイルとして、クライアントとの関わり方のバリエーションも増えるだろう。
もちろん、M&Aにおけるデューデリジェンスや初期PMIなど、コンサルタントが100%稼働で専従すべきテーマもあることも事実だし、案件を掛け持ち過ぎても、コンサルタントが全てのクライアントに気がまわらなくなり、品質が下がってしまうこともある。その点に留意しつつも、“ダラダラ”とは言わないが、“メリハリ”をつけたコンサルティングを心がけていきたいと思った。精進します!
MAVIS PARTNERS プリンシパル 田中大貴