4.プリンシパル
印刷現役を続けたければ、用意周到と凡事徹底を
2020-11-20
人間誰しも老いは避けられない
スポーツ選手の平均引退年齢をご存知だろうか?華々しく活躍する選手たちも、ピークを過ぎれば、現役から引退せざるを得ない。スポーツ種目によっても、そのタイミングは違うらしい。新体操20歳、フィギュアスケート24歳、水泳25歳、サッカー26歳、野球29歳、バスケットボール30歳、テニス35歳だそうだ。なんと若くして、現役を引退してしまうことか。幼い頃から誘惑に負けず、努力して、節制して、自分を鍛え上げてきたスポーツ選手たちは、平均30歳前には引退しているという驚愕の事実。
もちろん、2020年10月現在、サッカーの三浦知良選手(53歳)、スキージャンプの葛西紀明選手(48歳)のように、平均引退年齢をはるかに過ぎても活躍している選手はいるが、非常に稀であることには違いない。
私は、大学を卒業して以来、コンサルタントという職業を続けているが、自分のコンサルタントとしての「引退」の2文字が頭にふとよぎったのは、意外にも若く、20代後半のときだった。
頭を使う仕事でも衰えはある
当時、私はコンサルタントという仕事に面白みをようやく感じ始めた頃だった。20代後半の私は、毎日3~4時間の睡眠でやっていける体力もあったし、思考のスピードも今より格段に早かった。やらなければならないことは、常に頭の中で整理され、いつも頭がクリアだった。そんな盛りの私には、常に多くの仕事が課されていたし、それを嬉々として取り組んでいた。楽しくて仕方なかったと思う。と、そこまでは良いのだが、如何せん、生意気だった。一緒にチームを組んだ年上の上司には常に歯向かっていたし、先輩コンサルタントを論破することに生きがいを感じていた程だ。「なぜ、これが分からないのか、理解が遅いのか、経験年数だけ多くて、知識はあっても本当に使えない人だ」と、本気で思っていたと思う。
ただ、ある時、ふと思った。これは今自分が若くて頭の回転が早いから出来ている“下剋上”であって、いつか、自分は、部下の生意気な若手コンサルタントに同じようなことを思われるのではないか…。将来、若手に論破される自分を想像すると、ゾッとしてしまった。
それ以来、コンサルタントとして生きていくならば、専門性を身につけようと考え、M&Aというフィールドを選び、今では、M&Aを専門にしたコンサルタントをしている。そして、出来る限り、自分が出来ることは標準化しようと決めた。頭の回転が遅くなり、その場の思いつきで対応できなくなることを見据えて、思考の型をストックしていくことにした。将来生き残っていくための用意だ。
当たり前なことをちゃんとやるしかない
あれから10年が経った。今振り返ってみても、あのときの決断、コンサルタントとしてエッジを身につけようと決意したこと、そして、なるべく思考を標準化しようと決意したことは、間違っていなかったと思う。10年前と比べて、頭の回転は遅くなったと感じることは多々あるし、やらなきゃと思っていることは、メモに全て残しておかないと取りこぼしが発生するようになった。若手のときよりも、仕事が多岐にわたり、量も多いからという面もあるかもしれないが、決してそれだけではないはずだ。
また、コンサルティング業界の人材流出入を見ていてもそれは思う。特に専門性の無いジェネラルな経営コンサルタントは、3年程度で業界を去ってしまうケースが多いように見える。長くても5-6年だろう。もちろん、なかには前向きな卒業もあると思うが、「もうやっていけない、疲れた」という理由で引退する人も多く見てきた。
一方、私は10年かけて、コツコツためてきた思考の型があるおかげか、何とか現役コンサルタントを続けられている。後は、当たり前なことを疎かにしないことも功を奏している。その場の機転だけで何とかできるような天才なら不要かもしれないが、私はそうじゃないので、愚直になった。理解しきるまで自分の言葉で文章を書くこと、会議の設計とシミュレーションをしておくこと、何でもメモすること、後で振り返って大事だと思うことを追記しておくこと、定期的にインプットするために本を読むこと、知らないことはその日のうちに調べておくこと、日曜日に1週間分の仕事の設計をしておくこと等など。挙げてみると、意外と、コンサルタントとして“当たり前なこと”は多い。それらを軽視せず、徹底することだ。用意周到と凡事徹底、この2つを徹底するだけで、生き残ることは出来る。
MAVIS PARTNERS プリンシパル 田中大貴