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”人事”と”天命”を見極められているか?

2025-11-28

”人事”と”天命”を見極められているか?

人事を尽くして天命を待つ、という生き方

「人事を尽くして天命を待つ」という故事成語がある。人の力で可能なことを最大限やり切ったら、あとは焦らず静かに結果を天に委ねよ──という意味である。受験を控えた学生に贈られる言葉としても馴染み深い。「勉強すべきことをやったのなら、あとは不安になりすぎず、自分を信じて結果を待とう」という励ましである。

もっとも、受験という行為は運要素がそこまで大きくないと考えられる。もちろん本番の体調やケアレスミスなどの偶然はあるが、試験は評価基準が明確であり、事前にやったことが結果に比較的ストレートに反映される領域である。しかし、仕事や恋愛といったより普遍的なテーマとなると、事情は大きく異なる。そこには入学試験のように標準化された物差しはなく、自分の努力ではどうにもならない外部要因──いわば天命の影響が極めて大きくなる。

たとえば、仕事においては、「業界知識のインプット量」、「プレゼンのリハーサル有無」といった変数は自己コントロール可能な”人事”に属する。一方で、「クライアント内部の社内政治」、「キーパーソンの異動」など、自己のコントロール範囲外から結果を左右する変数も少なくない。また、同様にどれだけ良い成果を出しても、評価者である上司の好みや価値観によって評価が変わってしまうことも珍しくない。

“人事”と”天命”を見極められているか?

自分の努力ではどうにもならない外部要因が介入しやすい領域において、そのすべてを自分の実力のせいだと解釈するのは危険である。ある研究・実験によると、人間が強い無力感を感じるのは、失敗そのものではなく、“自己の努力によって結果がコントロールができない状況”であるとされている。心理学では、これを学習性無力感と呼ぶ。

また、メンタルが不安定になるだけでなく、「では何を改善すべきか」という問題発見の精度が大きく落ちてしまう。「努力で変えられる領域」(=“人事”)と「努力では変えられない領域」(=天命)の境界を誤認していると、正しい改善は永遠に行えない。

分かりやすく整理すると、人事と天命の境界線を見誤るパターンは以下の二つだと考えられる。
① “人事”の範囲を過小評価する:本来努力すべき領域で手を抜いてしまい成長機会を失う。
② ”人事”の範囲を過大評価する:コントロール不能な領域に執着してストレスを抱える+努力の方向を誤る。

①は他責思考、②は自責思考と言われ、一般的には②の自責思考が望ましいと言われるが、どちらにせよ「運の要素」と、「自分の行動で変えられる要素」は明確に分離するべきである。境界線を正しく引き、変えられる変数のみに徹底的にフォーカスすることが、メンタルの安定にも、長期的な成果の最大化にもつながる。

成果主義からプロセス主義へ

では、どうすれば良いのか。少なくとも個人的なPDCAサイクルを回すための自己評価基準としては成果指標だけではなく、プロセス指標を有効活用することが重要だと考えられる。

例えば、営業であれば、受注件数だけを見るのではなく、1日当たりのテレアポ件数や面談件数、2回目商談率などのプロセス指標を成績優秀者と比べながら、プロセスは間違っていないのか?を分析することができる。努力が中間成果に結びついている範囲を一つ一つ確認しながら、最終成果に結びつかない原因がプロセスなのか運なのかを特定すれば正確な自己評価が可能である。

とはいえ、自己評価ではなく、人事部の評価となるとそう単純ではない。思い付きではなく、何が最終成果に繋がるプロセス指標なのかを数値根拠を持って示すことができなければ、不当な評価に繋がる可能性がある。本来は、実データに基づいて最終成果とプロセス指標の因果関係を明らかにした上で、パフォーマンスのモニタリング・評価モデルへの反映ができていることが理想だとは思うが、営業のようなプロセス指標が分かりやすい業種でなければ難しい。

何にせよ、「人事を尽くして天命を待つ」とは、他社の評価や目の前の結果に一喜一憂せず、確固たる自己のプロセス評価基準を持ち、淡々とやるべきことをやり続けることだと私は考える。

MAVIS PARTNERS アソシエイト 松村寿明

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