1.アナリスト
印刷「書き言葉」と「話し言葉」
2025-06-13

「書き言葉」と「話し言葉」
我々は現代社会において、日々さまざまな場面で言葉を使ってコミュニケーションをとっている。本稿では敢えてその手段を二つに分け、「書き言葉」と「話し言葉」に定義する。一見、どちらも情報や感情を伝えるという点で同じように思えるかもしれないが、この二つは性質が異なり、その違いを理解することは、より円滑なコミュニケーションを築くうえで非常に重要であると考える。
「書き言葉」はいつ使うべき?
「書き言葉」は、文字として記録に残る表現方法である。メールや手紙、SNSの投稿、報告書などがその代表例だろう。書き言葉の良い点は、相手と時間や場所を共有していなくても伝えられること、すなわち二人で話す時間を予め決めておかなくても、双方の都合の良い時間にその内容を確認し合えるということだ。また、文字として残すことができるために、何度も読み返すことができたり、記録として残しておけたりすることもよい点である。これらは、情報の正確な伝達や、論理的な思考の整理には非常に有効である。一方、書き言葉には落とし穴もある。それは、「受け手の感情に左右されやすい」ということである。例えば同じ言葉でも、読み手のその時の心理状態によって、受け取り方が大きく変わってしまうことがある。「了解しました」という一言でさえ、ある人には「丁寧な返事」と映り、別の人には「冷たく突き放された」と感じられるかもしれない。なぜなら、書き言葉には表情も声のトーンも抑揚もなく、読み手が文脈や感情を補完して解釈しなければならないためである。
「話し言葉」はいつ使うべき?
一方、「話し言葉」は、声に出して話すことによって伝える表現である。会話や電話、プレゼンテーション、対面のミーティングなどが該当する。話し言葉の良い点は、話し手の「感情」を直接届けられるということである。声のトーンや速度、表情や身振り手振りなど、非言語的な情報が豊富に含まれているため、伝えたい気持ちがより明確に、より深く相手に届きやすくなる。実際にコミュニケーションの伝達において、大きな割合を占めるのは表情や態度などの非言語的要素が55%を占めると言われており、声のトーンが38%、実際の言葉の内容はなんと7%であるとされている。(メラビアンの法則1)だからこそ、例えば謝罪をしたいときは、相手の感情に大きく関わる重要な場面であるので、できる限り「直接会って話す」という手段を取ったり、それが難しい場合には「電話で声を伝える」といった手段を選んだりすることが望ましいと考えられる。文章で謝ることは形式的には成立していても、相手に誠意が伝わりにくかったり、相手の読む際の気持ちの持ちよう次第では本意が伝わらなかったりするかもしれない。逆に、少し詰まった声で「本当に申し訳ない」と言われた時、その人の悔しさや申し訳なさが声ににじんでいれば、相手はその感情を自然と受け取る可能性が高まるだろう。
「話し言葉」を有効に使おう
伝えたい「内容」が主であるのか、あるいは「気持ち」や「関係性」を重視したいのかによって、話し言葉と書き言葉のどちらを使うべきかが変わってくる。無論、インターネットやデジタルデバイスが普及した現代において、全てを話し言葉に頼るわけにもいかない。ビジネスの世界では、記録を残すためにもメールや文書は欠かせない手段だが、誤解を避けたい場面や、相手との信頼関係を大切にしたい時には、やはり声と言葉の「温度」が感じられる話し言葉の方が効果的である。また最近では、LINEやチャットなど書き言葉と話し言葉の中間のような手段も広がっている。短い言葉に絵文字やスタンプを添えることで、感情の伝達の補助にはなり得るかもしれないが、それでもやはり限界がある。だからこそ、我々は手段を「選ぶ」意識を持つことが大切なのである。コミュニケーションにおいて最も重要なのは、「相手にどう伝わるか」という視点であり、書けば伝わると思っていたのに、意図とは異なる意味に受け取られてしまうこともある。逆に、ほんの一言を直接伝えるだけで、相手の心が動くこともある。こうした違いを理解し、場面に応じた言葉の使い方を選ぶことが、現代社会における“伝える力”の鍵になるのではないだろうか。
MAVIS PARTNERS アナリスト 大橋建太
1https://www.kaonavi.jp/dictionary/melabians-law/