1.アナリスト
印刷中学生でも分かるビジネスの基本:価値と価格、コストの関係性
2025-01-17
安く仕入れて高く売るのがビジネスの基本
人類の歴史を遡れば、人間同士の取引の原点はモノを仕入れて売ることである。たとえば、ある地域では豊富に採れるため大して価値がないモノも、別の地域では希少価値が高いため、高値で売れる場合がある。その価値のギャップを利用して、商人たちは貿易の担い手となり銭を稼いできた。ここで重要なのは、モノやサービスの「価値」は固定的なものではなく、受け取る人や状況によって異なるという点である。同じモノでも、ある人にとっては不要なものが、別の人にとっては高い価値を持つことがある。この「価値の差」を見抜く目こそが、商人や企業が収益を上げる鍵だった。
価値と価格、コストの関係を整理する
ビジネスの基本の基本は、「価値」「価格」「コスト」の3つの要素の関係を理解することだ。まず、「コスト」は商品やサービスを提供するためにかかる原材料費や人件費、物流費などの費用を指す。一方、「価格」は顧客が支払う金額であり、「価値」は顧客がその商品やサービスに対して感じる有用性や満足度を表す。
ここで重要なのは、価値=価格ではないということだ。そもそも人によって商品価値は異なるが、同じ商品の販売価格を人によって変えると問題になってしまうため、価格は一つに落ち着く。(ここは複雑な条件は抜きにして、シンプルに考えていることをご容赦いただきたい)たとえば、販売価格を下げれば顧客が増える可能性は高まるが、利益は小さくなる。逆に価格を上げすぎると、購入をためらう顧客が増えてしまうかもしれない。よって、「販売量 × 利益(価格-コスト)」が最大になる最適な価格を設定することが望ましい。さらに、価格は市場の競争環境によっても大きく左右される。同じような商品が市場に多数存在する場合、差別化ができなければ価格競争に陥り、価格が下がっていくからだ。
これらの指標の関係性を整理すると、「顧客価値>売価>コスト」となる。この場合、「顧客価値-売価」を顧客満足度、「売価-コスト」を利益と考えることができる。また、「顧客価値-コスト」が企業活動の付加価値である。企業活動の最重要指標である利益を伸ばすには、商品の付加価値を高めながら、差別化によって競争を避けて売価を高めることが条件となる。たとえば、商品やサービスの付加価値が高い場合、顧客は価格に対して満足感を得られ、企業は高価格でも利益を確保できる。一方で、どれだけ差別化がうまくいっても、そもそもの付加価値が低ければ、利益を伸ばす余地がない。つまり、付加価値の大きさこそが、利益率を高める可能性を広げる基盤となる。
ここで、具体例としてキーエンスを取り上げてみよう。
ケーススタディ:キーエンス
キーエンスは、利益率50%超えで平均年収が2000万円を超える企業として知られる。その成功の鍵は、「付加価値の最大化」と「差別化」にある。キーエンスの製品はセンサーや測定機器など、工場の生産ラインで使用されるものである。これらの製品自体の製造コストは他社と比較して大きな差はない。しかし、キーエンスはこの製品を単なる「道具」としてではなく、顧客の課題を解決する「ソリューション」として販売している。たとえば、キーエンスの営業は「このセンサーを導入することで、不良品率を30%削減できる」「生産ラインの効率を25%向上できる」といった具体的な成果を顧客に提示する。これにより、顧客は単なるセンサーではなく、「この製品を使うことで得られる成果」に対してお金を払うことを納得する。また、キーエンスは製造を外注し、研究開発や営業活動にリソースを集中することで、コストを効率的に抑えつつ高い付加価値を生み出している。このように、顧客価値を極限まで高めた結果、他社より高い価格設定にもかかわらず選ばれる存在となっている。
おわりに
ここまで極めてシンプルな3つの指標だけを用いて、ビジネスの基本について中学生でも分かるように整理してみた。日本ではこどもがビジネスを学ぶ機会は全くないが、海外では「レモネードスタンド」といった形で体験型の学習をする機会があるようだ。基本的な教養の一つとして子供時代から簡単なビジネス感覚を養うことは今の時代とても重要なのではないかと個人的には思う。
MAVIS PARTNERS アナリスト 松村寿明