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「なぜ自衛隊の潜水艦の取材で、冷蔵庫を写してはいけないのか ~起源から考える戦略コンサルティングの価値~」

2025-04-18

「なぜ自衛隊の潜水艦の取材で、冷蔵庫を写してはいけないのか ~起源から考える戦略コンサルティングの価値~」

潜水艦取材の禁忌

YouTubeで「海上自衛隊の潜水艦の職場めし1」という、ポップでソフトな取材動画を見た。長期間に渡る水中の密室状態となる潜水艦でのキッチン事情に迫る面白いドキュメンタリーだった。
炊事を担当する補給科隊員の知恵と努力により、任務中の潜水艦内でもいかに美味しい食事が提供されているのかというのが主な内容であったが、特に印象的だったのが、潜水艦の冷蔵庫の撮影を謝絶されているシーンだった。
隊員の述べるところによると「冷蔵庫の容量が分かってしまうと、航行能力、継戦能力が分かってしまう」ということで、冷蔵庫容量は軍事機密にあたるらしい。潜水艦の構造や潜航能力、搭載兵器、積載燃料などは当然軍事機密にあたるということは理解していたが、冷蔵庫の容量という側面情報からも、兵器の能力の側を推し量ることができるのだ。

戦略コンサルティングはCIA?

とある飲み会で大先輩のコンサルタントと「戦略コンサルティングファームの起源は?」という内容について話したことがある。曰く、会計事務所から派生した総合コンサルティング会社とは異なり、戦略コンサルティングのはしりは米国の諜報機関で、戦後産業スパイとなった諜報員が、情報の非対称性に優位性を持つ戦略コンサルティングというビジネスを始めたという説があるとのことだった。基本的には経営学の発展に端を発すのが経営コンサルティングの成り立ちだと理解しているが、この説には妙な納得感があった。
もちろん、現代のコンサルティング会社で“産業スパイ”のような違法な情報収集をしているファームなどは無いだろう(あるいは、存在したとしてもコンプライアンス上の懸念から起用はしないほうがいいと考えられる)。一方で、正面から情報を取りに行ってもどうしても内実に迫れないときは、様々な側面情報や公開情報を組み合わせたり、独自のネットワークを駆使したりし、実像に迫っていくという手法はコンサルティング会社ではよく用いられる。実際、MAVISでも側面情報や独自のネットワークを用いてリサーチを行うことも少なくない。
“諜報”という言葉には、「対象の許可なくして機密情報を取得する」という意味があるので、正しくは「意思決定のための情報収集」である“インテリジェンス”の語が適切であろうか。
(無論、コンサルティング会社に限ったことではない。以前、私が政治事務所の秘書をしていた際も、競合候補についての情報収集ではかなり多様な情報収集・分析を行っていた)

戦略コンサルティングの一価値としての“インテリジェンス”

その飲み会では、「戦略コンサルティングとはなにか?」という議論も行われていた。“戦略”という言葉は本来的には軍事用語からきているもので、それは「戦争目的を達成するための方法論」であり、多くの場合「敵に対する優位性をいかにして確立するか?」という問いに対する取り組みである。経営の世界においても同義に用いられることも多い。上場企業の経営者を経験したある先輩から「“戦略”とはいかに相手を出し抜く方策なのだ」と言われたこともある。
その意味で、戦略コンサルティングは、経営の意思決定に寄与する情報収集を行う“インテリジェンス”を包含すると考える。
AIが情報を瞬時に収集・分析し、綿密なレポートを生成し得る今日にあっても、より“ディープ”な情報を得るコンサルティングファームのリサーチ技術は公開情報に依拠するAIとは異なる価値を依然発揮し続けよう。
もちろん、企業にとっての“戦略”はより価値創造にフォーカスした概念となりつつあり、そのスコープは「競合に対する優位性を確立する」ということだけに留まらない。ただ、“戦略コンサルティング”という一見分かりそうで分からない概念に対し、本稿が“インテリジェンス”も戦略コンサルティングのひとつの機能なのである、という一解を提供できれば幸いである。

MAVIS PARTNERS アナリスト 為国智博


1日テレNEWS、【密着取材】何を食べている?潜水艦の中の”職場めし”『every.特集』、2022年5月8日(https://www.youtube.com/watch?v=AI-3y3AGT30&t=422s(2025年4月22日閲覧)

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