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心理的安全性と緊張感のバランス

2025-03-28

心理的安全性と緊張感のバランス

ゴルフ会員権の価格が上昇

2025年4月2日の日経新聞「ゴルフ接待が回復 法人の購入で高額の会員権値上がり」によると、東京都心からアクセスの良いゴルフ上の会員権価格が上昇しているらしい。特に会員権価格が1,000万円を超えるような高価格帯で、法人の買いが価格の伸びを牽引しているようだ。その背景の一つとして言われているのが、「企業の社外取締役の就任が増えていること」らしい。
2021年に改定されたコーポレート・ガバナンス・コードで、東証プライム上場企業に対して独立社外取締役を取締役の1/3以上確保することが推奨されて以降、多くの会社で社外取締役の割合は増加を続け、2024年12月末時点で、社外取締役を1/3以上選任している企業は東証プライム上場企業全体の99%にものぼる。
そんな中で、「新役員用にゴルフ会員権を確保する動きなどにつながっているようだ」ということだが、いったい何故社外取締役が増えると、ゴルフ会員権を確保するようになるのだろうか。

心理的安全性の確保

社外取締役の増加にあわせて、ゴルフ会員権を購入する企業担当者の思惑として、社外取締役の”心理的安全性の確保”が一つあると考えられる。
以前、とある企業の取締役の方や、取締役会の運営に関わる事務局の方と話していたときによく聞いたのが「社外取締役が社長をはじめとした社内取締役に対して意見しづらい空気がある。それによって、取締役会での議論が盛り上がらない」といったような話だ。いくつかの企業では、取締役会メンバーで食事会を開催したりなど、社外取締役の”心理的安全性”の確保、つまり社外取締役が取締役会で発言がしやすい雰囲気の確保に努めているらしい。
実際に私自身が取締役会のメンバーになったことが無いので、本当にゴルフを一緒にすることで、取締役会で発言がしやすくなるのか真偽の程は定かではないが、ゴルフはしたことがあるので、それが懇親の場になって仲が深まることはなんとなく理解出来る。

馴れ合いはNG

一方で、2025年3月15日の日経新聞には、「社外取締役すっかり身内 「在任10年」迫る1割、監視緩みも」という記事もある。「長期在任で独立性が損なわれるとする投資家の懸念の高まり」によって、「主要企業の24年の株主総会で、在任十数年〜約20年の社外取選任への賛成率が60〜70%台にとどまった」そうだ。
先述の、ゴルフを通じた心理的安全性の確保は、もしかすると社外取締役の独立性を損なう結果に繋がる可能性もあるかもしれない。社外取締役と社内取締役の仲が深まって、文字通り”お友達”になってしまえば、社外取締役による執行側への監視の目も行き届かなくなる可能性がある。
以前、企業における取締役人事に詳しい識者と話をしたとき、彼は「本来、社外取締役というのは、社長に対してNOを突きつけられるような気概を持った人物であるべき」と言っていた。懇親の場はたしかに大事かもしれないが、あまりに社外取締役を持ち上げて、高級ゴルフコースで接待するようなやり方が、本来の社外取締役のあるべき姿実現に資するものかというと、微妙な感じもしてしまう。

心理的安全性と緊張感のバランス

心理的安全性は大事だけど、あまりやりすぎると緊張感が削がれて仕事の姿勢が緩むという話は、取締役会に限らず、多くの会社組織でもいえそうだと思った。
最近では心理的安全性という言葉もよく耳にするようになってきたが、多くの組織で飲み会をしたり、社員旅行にいったりと、メンバー同士の仲を深める活動は昔からある。一方で、メンバー同士の馴れ合いが発生して、互いに指摘すべきことも指摘しない組織になってしまっては、メンバーの成長ひいては組織の成長が阻害されてしまう。
株主から経営の委任を受けている取締役会において”心理的安全性と緊張感のバランス”が重要であると同時に、実際に業務を行う執行の現場でも、同様に”心理的安全性と緊張感のバランス”を意識しながら日々チームビルディングする必要がありそうだ。

MAVIS PARTNERS アソシエイト 井田倫宏

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