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“答えのない問い”へ答える力を育む歴史総合

2025-03-14

“答えのない問い”へ答える力を育む歴史総合

問いに向き合う力を育てる「歴史総合」

「なぜ戦争は起きたのか」「なぜ格差が生まれたのか」、こうした“答えのない問い”に向き合う力を育てることを目的として、これまでの日本史、世界史に追加する形で高校教育に新しく導入された科目が「歴史総合」である。
2022年度から必修化されたこの科目では、年号や人物名の暗記に留まらず、過去と現在の関係性に目を向け、未来を見通すための視点を養うことが求められる。たとえば第二次世界大戦を学ぶ際にも、「いつ起きたか」「誰が勝ったか」といった事実ではなく、「なぜ各国があのような選択をしたのか」「当時の経済や思想はどう影響したのか」といった背景に目を向ける。
文科省の資料では、歴史総合を学ぶ目的として「歴史の大きな転換に着目し、単元の基軸となる本質的で大きな問いを設け、諸資料を適切に活用しながら、比較や因果関係を追究するなど社会的事象の歴史的な見方・考え方を用いて考察する歴史の学び方を身に付ける」と記載している。
私自身は現役世代ではなく高校生の家族もいないので「歴史総合」についてはニュースで知っただけだが、「歴史を学ぶ意義が感じられる面白い科目だな」と感心した覚えがある。また、「本質的な問いを設定し、ファクトを整理・比較・分析しながら問いの答えを考察する」という方法論は、社会人になった私たちにとっても、非常に重要な意味を持っていると言えるはずだ。

海外で気づいた「歴史を問い直す力」

個人的な話ではあるが、学生時代から歴史は好きな科目だった。小学生の頃から家にあった小学館の学習マンガ「日本の歴史」は何度も読み返していた。過去の事件や人物を知ることはロマンを感じる。複数の出来事がつながってその時代の大きな流れが見える瞬間には、知的好奇心をくすぐられた。ただ、高校時代の学びは受験対策が中心で、「なぜそれが起きたのか」と掘り下げる機会は多くなかった。目の前の好奇心が満たされるだけで満足していたのだと思う。
そんな私が、歴史を現代社会と結び付けて多面的に学ぶ重要性を実感したのは、社会人になってからの海外旅行がきっかけだった。ある国を訪れた際、その文化や政治制度に興味を持ち、調べていくうちに、その国独自の政治経済や文化の背景を理解するには“答えのない問い”に対して仮説を立て、複数の視点から考察・検証する力が欠かせないと気づいた。なぜこの国では民主主義が根付きにくいのか。なぜ隣国と対立しているのか。今後この国はどうなっていくのか。そこに教科書的な唯一の答えは無い。

ビジネスにおける“構造的思考”の実践

そして私は今、経営コンサルタントとして、まさに“答えのない問い”と日々向き合っている。クライアントの課題には決まった正解があるわけではない。むしろ、複雑な状況を整理し、自分たちで「問い」を定義するところから仕事は始まる。
たとえば企業経営に影響を与える要因は、脱炭素の動き、円安による原価高、消費者価値観の変化、AI技術の急速な進展といったいわゆるPESTの環境変化や、競合の動きなど多岐にわたる。経営者や経営コンサルタントはこれらの要因を整理し、「我々はどこに向かうべきか」という問いに答えを出すことが求められる。
このプロセスは、歴史総合で学ぶ「なぜその出来事が起こったのか」を考える過程と非常によく似ている。答えを覚えるのではなく、問いを立て、仮説を持ち、多様な視点から検証しながら答えに近づいていく。その姿勢こそが、答えのない時代を生きるビジネスパーソンにとって不可欠な力だと言える。

答えのない問いに向き合うということ

「答えのない問いに向き合う力」は、教育の場でも、ビジネスの現場でも、そして人生においても変わらず求められる。歴史総合は、そうした力を育む教育が重視されていることを象徴しており、経営コンサルタントという職業はそうした力が求められる典型的な仕事の一つである。どちらにも共通しているのは、複雑な現実に対して思考を止めず、自分なりの仮説を持って挑むという姿勢だろう。変化の多いこれからの時代を生き抜くために必要なのは、「覚えた答えの数」ではなく、「どんな問いを立てられるか」「どう答えをつくり出すか」であるはずだ。

MAVIS PARTNERS アソシエイト 松村寿明

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