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スキー板の今昔と社会変化とビジネス

2025-02-14

スキー板の今昔と社会変化とビジネス

ストレートスキーからカービングスキーへ

この冬、10年ぶりにスキーに行ってきた。次第に体が感覚を取り戻すとともに、斜度の高いコースやコブ、非圧雪のコースに挑戦していった。斜度の高いコースも非圧雪のコースも転倒せずに滑れるようになるのだが、コブは滑れない。また、そもそも「滑れる」にも2つあり、「難しいコースでも転倒せずに滑れる」ことと「きれいなフォームで美しく滑れる」ことは全く別物で、前者は滑り続けていればどうにか達成できるようになるが、後者はやはりスクールや本、Youtubeなどで「学ぶ」ことが必要になってくる。コブを滑れるようになるのも、そのための技術が明確に存在するようだ。それらを調べていると必ずと言ってよいほど出てくる話題が「昔のスキー」と「今のスキー」の違いだ。これは板の進化と、それによる滑り方の技術の変化であり、カービングスキーの誕生によって起こった変化だ。カービングスキーとはスキーの板の種類を指している。それ以前のストレートスキーはほぼ直線的な形状で、長さも195cm以上が一般的で、スピードは出るものの、小回りがしづらく、ターンには高度な技術が求められた。一方、カービングスキーはウエスト(中央)が細く、トップ(先端)とテール(後端)の幅が広いのが特徴で、長さも短く(160〜180cm)、簡単にターンできるように進化している。カービングスキーの歴史を簡単に説明すると、1988年にスロベニアのエラン(Elan)社が、世界初の本格的なカービングスキー「Elan SCX」を発表。1990年代に入ると、各スキーメーカーがカービングスキーを本格的に開発・販売を開始し急速に普及。1998年の長野オリンピックでは、多くのレーサーがカービングスキーを使用し、その優位性が証明され、さらに認知が拡大。2000年代になると、カービングスキーはスキー業界の標準となり、ストレートスキーはほぼ姿を消し、現在では、ほとんどのスキー板がカービング形状を採用するに至る。これにより、その道具に適した滑り方が求められ、スキーヤー側も指導側も大きな変化が求められた。「きれいなフォームで美しく滑る」ことを検定するスキー検定の内容も時代とともに変化している。

他スポーツにおける変化

他のスポーツに目を向けると、サッカー業界ではなんと4年に1回ワールドカップの度に公式球が変更される。その性質の変化に選手は順応しなければならず、ファンにとっては次の大会ではどんなボールになるか分からないという不確かさがワールドカップの面白さを増す一要素だったりするらしい。1930年の第1回ウルグアイ大会で使用されたボールはラグビーボールのような茶色い革でできたボールで、縫い目が大きく飛び出している形。1970年メキシコ大会でいわゆる黒と白の、キャプテン翼等でおなじみのテルスターという名のボールが登場。史上最も嫌われていると言われているのが2010年南アフリカ大会で使用されたジャブラニ。8枚(2種類)の立体パネルを組み合わせることで、限りなく真球に近い球体を実現。しかし選手、特にゴールキーパーたちの評判は悪く、「予測不可能」「恥ずべき」「失敗作」と評されてしまう。逆にこの大会はボールの特性を活かした無回転のシュートをマスターした選手が活躍した大会でもあった。実はこの真球への試みは1つ前のドイツ大会の公式球チームガイストから始まっており、その際から無回転シュートのブレは大きくなっていた。チームガイストはその頃すでに流行していた「ブレ球を蹴る」という技術を、さらにワンランクアップさせるアイテムとなっていたのだ。本田圭佑は何度もFKの軌道修正を行い、さらには標高の高い南アフリカのキャンプ地に入ってからは気圧の変化を計算に入れるためにさらに練習を重ねたという。それがデンマーク戦のFKによる先制点につながり日本の決勝トーナメント進出につながったと考えると、変化への対応の重要性がうかがえる。
スキージャンプでは1998-1999年シーズンにおいて導入された「146%ルール」がある。それまで「身長+80cm」以内だったスキー板の長さに関する規定が、身長の146%以内に変更され、従来のルールでは身長が168cmの選手は最長248cmのスキー板を用いることができたのに対し、変更後は、245cmと短くなった。一方で、身長180cmの選手は260cmであったのが263cmまで可能となった。欧州勢と比べれば日本勢が相対的に小柄な選手が多かったこと、そして長野五輪での個人・団体での日本の活躍もあり、「日本を狙った」という声が上がった。このように、どの変化にも賛否が生まれ、その意見を元に業界側が変化したり、しなかったりするのが常で、プレイヤーはそれらの変更に合わせて戦い方の修正を強いられる。

ビジネスの世界では

ビジネスにおいてはどうだろうか。私が社会人になったのは2011年で、その頃から新たな概念として耳に入ってきたのは企業の社会的責任(CSR)、各種ハラスメント、働き方改革、ESG、SDGs、DEI、コーポレートガバナンスなどだろうか。企業はそれらに対しての説明責任と対応が求められ、法規制なども生まれてくるため、適応しきれないとそもそも競争の土俵に立てなく場合も出てくる。例えばもともと省エネ化を進める製品を取り扱っていた企業にとってESGはこれまでの事業を継続するだけで企業の社会的意義をより強く主張することができる追い風になる一方、石油化学製品を扱っていた企業は事業の抜本的な改革が求められるなど、これらのルールの変化は企業をふるいにかけ、適者生存を余儀なくさせる側面もある。面白いことにトランプ政権の登場により、これまでは推進するのが善だとされていたDEIは米国では否定され、消えていくのが最新のトレンドだ。実はトランプ政権以前の2023年にも米ハーバード大などの入学選考で黒人や中南米系を優遇する積極的差別是正措置(アファーマティブ・アクション)について米連邦最高裁が違憲との判断を示すなど、DEIの潮流に疑問を投げかける出来事は起き始めていた。自動車業界においてはEVへのシフトの機運が高まる中、トヨタはそれについて対応しないわけではないが、それ以外への投資・開発も進める「全方位戦略」を進めてきた。これはEVシフトの潮流がどう転んでも競争優位を維持できる戦略であり、欧州を中心としたEVシフトへの動きが鈍化する中、トヨタの強さはさらに増していくかもしれない。

企業への支援を行うコンサルタントとしては、ビジネスの世界において今後どのようなルール変更や社会的潮流が生まれるのか、そしてそれらがどのように変化していくのかを注視し、時代の変化の中で戦う企業がブレ球を活かした無回転シュートやカービングスキーの滑り方をマスターする選手達のように活躍するための一助となっていきたい。そのためにはトレンドの変化にアンテナを張ってベストな対応策を考えるとともに、トレンドでは変わらないビジネスの本質についてもより一層理解を深めていきたいと思う。

MAVIS PARTNERS アソシエイト 森野輝之

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