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経営における直観力の重要性

2024-08-16

経営における直観力の重要性

経営は勘と経験と言われるゆえん

よく「経営は思いつきと決断力がすべて」「勘と経験が経営の鍵である」と言われる。この言葉は、MBAホルダーや経営コンサルタントが重んじる理論に基づくアプローチとは、一見相反するように見えるかもしれない。しかし、経営者が単なる第六感や運頼みで意思決定をしているわけではない。むしろ、彼らの判断は、長年の経験や知識によって瞬時に導かれるものであろう。

よく考えてみれば、「経営の勘や経験」というのは人間の脳の認知の仕組みとよく似ている。例えば、ガラスのコップを見たとき、私たちは即座にそれを「ガラスのコップだ」と認識するが、そのプロセスで光の通過率や硬度といった物理的特性をステップバイステップに細かく分析しているわけではない。私たちの脳は、色や形、置かれたシチュエーションなど、総合的な情報を瞬時に処理し、「ガラスのコップだ」という結論を導き出しているのである。これはまさに、経営者が状況に応じて最適な判断を下す際に活用する直観力と同様のプロセスといえる。

さらに、現代の人工知能(AI)も、ある意味で「勘や経験」のような認知の仕組みを備えている。初期のAIは「エキスパートシステム」と呼ばれるルールベースのロジックに基づく意思決定を模倣していた。しかし、これには限界があり、人間の複雑な意思決定プロセスを完全に再現することは困難だった。現在のAIは、事前に定義されたルールに頼らず、膨大なデータを基にして自ら「インプットからアウトプットを導き出すロジック」を自動生成する。これにより、AIは人間の認知に似た判断を下すことができるようになった。結局のところ、人間やAIの認知のプロセス自体が、「勘や経験」によるものといえる。

このような認知プロセスは、「直観」という名前がついているようだ。英語では「intuition」と訳される。直観は論理的な思考や意識的な観察を介さずに、無意識に判断が行われるプロセスである。しかし、直観的な判断は単なるひらめきではなく、実は冷静な状況分析や論理的思考に基づいていることが多い。つまり、直観にはしっかりとした根拠があるのだ。

論理的な思考の限界

一方、皆さんご存じの「ロジカルシンキング」は、問題を明確に定義し、その解決策を段階的に導き出すためのプロセスである。現代のビジネスにおいて広く浸透しており、多くのビジネスパーソンが習得すべきスキルとされている。しかし、万能に見えるロジカルシンキングにも限界がある。特に、複雑で予測不可能な状況や、多くの不確定要素が絡む問題に直面した場合、すべての要因を論理的に整理し、即座に解決策を導き出すことは非常に難しい。

その理由の一つは、人間の脳の処理能力には限界があるという点にある。脳内メモリには限りがあり、すべての要素を一度に並べて意識的に検討することは不可能である。また、無限の時間があるわけでもないため、特にスピードが求められる「経営の現場」では、論理的な分析に時間をかけることは現実的でない場合が多い。

直観と論理的思考力の相互補完関係

また、直観にも限界がある。経験や勘はバグやエラーを起こす可能性が高いのだ。偏った経験や知識に基づく直観的判断は思いもよらぬ間違った答えを導く可能性もある。そういった直観的判断の妥当性を事後的に検証する際には、ロジカルシンキングは大いに役立つ。また、検証だけでなく、他者へ自分の考えや判断を説明する際にも大きな役割を果たす。論理的な根拠を示して説明を行うことで、他者とのコミュニケーションが円滑になり、信頼関係の構築にもつながるのだ。

つまり、直観力と論理的思考力は、それぞれ異なる強みを持ちながらも、互いに補完し合う関係にある。もし直観力が不足していれば、重要な判断に過剰な時間がかかり、結果として貴重な機会を逃すことになる。一方で、論理的思考力が欠けていれば、誤った判断を避けることができず、他者に自分の考えを適切に伝えることも困難になる。したがって、直感で導き出されたアイデアや判断を、論理的思考で検証し、強化することが、より確実で効果的な解決策を生み出すための鍵となる。

一人のコンサルタントとしても、経営者の真のパートナーに近づくためには、単なるリサーチャーや分析者にとどまらず、直観力を養い、経営者と対等に議論できる能力を身につけることがポイントだろう。

MAVIS PARTNERS アナリスト 松村寿明

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