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「キャラ採用」を考える

2024-07-19

「キャラ採用」を考える

「為国さんはキャラ採用です!」

MAVISでは毎月、最終金曜日に定例会&懇親会を開催している。この会には入社を控えた社員も参加できるので、MAVISに内定していた私も参加し、そこで初対面のメンバーたちに自己紹介をするやいなや、プリンシパルから冒頭の言葉の洗礼を受けたのだった。

「キャラ立ちした人」をとりたいという観点でいえば、確かに私の前職は政治領域の研究機関で、大学でも政治学を学んでおり、特技は演説と朝6時からのビラ配りという人材である。M&A戦略コンサルティング会社では異質なニューカマーだろう。そんな異質さをポジティブに受け入れて社内で付加価値にしようというプリンシパルの採用の方針は、私を未経験のコンサルティング業界に誘ったのだった。
「キャラ採用」、この言葉を私はとてもポジティブに受け取った。なぜならば、幼少期から人との差分にこそ価値が生まれると思って育っており、人と違った趣味やキャリアを選んできたという外形的なものだけでなく、物事をとらえる姿勢も前提を疑ったり、人とは一風違った捉え方で考えたりするよう心掛けてきたからだ。実は、前職での研究テーマは「変人の持つ能力を引きだす社会・組織」の探求であった。そんな私を「キャラ採用」したMAVISは自分にぴったりのファームだと思って入社した。

増加する「キャラ採用」ニーズ

「日本企業は同質性が高い」、とよく言われる。終身雇用とジョブローテーションを前提とした新卒一括採用では、企業文化に適合することを念頭に人材を採用し育成するので、自ずと同質的になってゆく。
大企業だけでない。前職でかかわった地方の伝統的な中小企業の経営者は「うちの社員は金太郎飴みたいで、みんな同じような人しかいない」と頻りに嘆いていた。前職時代、この中小企業と「社員の変人性を向上させる」という一風変わった研究に取り組んだこともある。

こうした課題感が社会で共有される中で、ジェネラリストではなく専門的な知見を持った人材や、新規事業などの「新しい風」を起こすことのできる人材をどう獲得し、育成できるかは、同質的な組織風土を持った多くの企業のチャレンジとなっている。
富士通は採用した人材が偏っていることを危惧し、2011年春の新入社員採用から「チャレンジ&イノベーション採用」と銘打って一芸採用枠を新設した1。とがった優秀な人材を採る「キャラ採用」の先駆的な事例と言えよう。
最もJTC(Japanese Traditional Company;伝統的な日本企業)的な企業群である損害保険各社でも、キャラ採用に力を入れている。損保ジャパンは2019年から「チャレンジコース」という一芸採用を実施していた2。三井住友海上でも、特別な資格や経歴を活かした人材を採用する目的で「スペシフィックコース」を定めており、その中にはアクチュアリー人材などに加えてビジネスイノベーション人材などが定義されている3。両社は新卒採用だけでなく、かつてはほとんど実施してこなかった中途採用にも近年注力している。採用活動全般を通じて、これまでにいなかったタイプの人材を採りたいという意図が感じられる。

こうした従来に比べて異質な人材を獲得することを目標とした「キャラ採用」は、私が新卒で就職活動をしていた2019年前後を思い返しても、とても盛り上がっていたと回想する。富士通に始まった「キャラ採用」は、近年はより専門的な人材を要件に定めたジョブ型採用に人材ニーズが集約されつつもある感覚もあるが、社員の同質性に企業が課題を持ち続ける限り、「風穴」を開けるような人材が求められていくトレンドは続きそうだ。

キャラを活かすためには?

しかし、こうして頑張って「キャラ採用」をしてみたところで、同質性に迫られて力を発揮できなかったり、会社を押し出されてしまったりしては両者にとって不幸でしかない。これまで社内にいなかったようなスター人材を採用してみたものの、上手くいかなかったという例は多くありそうだ。現在、上述の「新卒一芸採用」の事例のいくつかは、ジョブ型採用に発展しているのか、うまくいかなかったのか、廃止されている。ここにも「キャラ採用」の難しさが見え隠れしているのかもしれない。
JTで採用・人事担当を務め、「JTの変人採用 「成長を続ける人」の共通点はどこにあるのか」という著作もある米田靖之氏の講演をかつて聴講したことがあるが、同氏が短期的なスパンでなく10年規模で捉えながら変人採用を実施し、成果を評価していたことが印象的だった。短期的な評価は難しく、辛抱強く、気を長く生かしていかなくてはならないのだが、そんな余裕のない企業も多い。

「キャラ採用」に限らず、社内で異質さを保持させてブレークスルーを達成させるマネジメントは難しい。元日産CEOのゴーンは在任中に、GT-Rの開発を指示し、市場に送り出した。この開発チームでは主任だった水野和敏氏のもとに、縦割り組織を取っ払って広範囲から異色な人を集め、事なかれ主義に陥っているこれまでの日産の開発手法と全く違うアプローチでゴーン以外からのマネジメントからすら極秘に開発を行ったという。日産の常識を破るマネジメントで、短期間で市場の常識を破る名車を誕生させたが、2018年にゴーンは特別背任のガバナンス違反を理由に日産と日本を追われることになる。果たしてマネジメントがうまくいったと評価できるのだろうか。

唐代の文人、韓愈の「千里の馬は常に有れども、伯楽は常には有らず」(『雑説四首・其四』)という有名なことわざがある。千里を走るような名馬のような優秀な人材であっても、それを見つけ出す人(=伯楽)がいなければ活躍することはできない、という意味だ。令和の時代にあってもそれは同じで、世の中に優秀なキャラ人材はたくさんいるが、その優秀なキャラを見抜いて活躍させることができる人やマネジメントは少ないのだろう。経験的にも、企業が新たに「キャラ採用」をしようとしても、そのキャラを活かせそうな管理職・部門がイメージできないからその人材の採用を断念するということが、「キャラ採用」の一番のネックになっている気がする。

やはり、「キャラ採用」への要望は高まっているものの、依然として、企業にとっては同質性の中で生きてきたプロパー社員と、多様で異質な新しい社員をうまくマネージすることは難題そうだ。同質的な組織に、異質な人材を統合させるという観点では、MAVISの専門とするPMI、ひいてはM&Aそのとも似た難しさなのかもしれない。そう考えると、キャラ人材マネジメントで培った能力が他組織との統合や協業などにも活躍する、という展開も期待できそうだ。

さて、本稿は入社一本目の記念するべきコラムである。この節目の決意として、プリンシパルの「キャラ採用」は伯楽の如し、と言わしめる働きぶりをこれから示すことを誓いたい。MAVISでの自分の存在と仕事を通じて、「キャラ採用」の一事例としての私を正解にしていきたい。もしかしたら、その頃にはMAVISは「キャラ採用コンサルティング」も手掛けているかもしれない、と夢想しつつ。

MAVIS PARTNERS アナリスト 為国智博


1「富士通「一芸採用」3倍増 内定するのは「とんがった」人材」JCASTニュース,2011年1月31日(https://www.j-cast.com/2011/01/31086889.html?p=all 、2024年7月17日最終アクセス)
2「新卒は29歳まで、一芸あり 損保ジャパンの採用改革」, NIKKEIリスキリング,2018年9月26日(https://reskill.nikkei.com/article/DGXMZO35537900Z10C18A9000000/、2024年7月17日最終アクセス)
3三井住友海上新卒採用募集要項(https://www.msig-saiyou.com/recruit/requirements/index.html、2024年7月17日最終アクセス)

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