1.アナリスト
印刷なぜ“いい質問”ができる人は強いのか
2025-08-29

“空気を変える問い”に出会った瞬間
議論の場の空気が一変する瞬間がある。プレゼンが始まる前でもなければ、キーパーソンが発言したときでもない。ただ一つの質問が、その場にいた全員の目線をガラッと変えてしまう。思えば、そんな場面に何度か出くわしてきた。先輩や上司が、会議の場で発するたった一言に、相手がハッとした顔で沈黙し、その後に続く言葉が急に熱を帯びていく。自分もその空気に引き込まれながら、「この人、ただ聞いてるんじゃなくて、見えてるんだな」と感じた。
うまく質問できない焦り
正直、自分がインタビューに入ったときは、まったくうまくいかなかった。事前に用意した質問リストを片手に、書いてある通りに聞いていく。でも、返ってくる答えはどれもふわっとしていて、そのままだと資料に使えるような内容ではなかった。
何が悪かったんだろう。問いの角度か、タイミングか、雰囲気の作り方か。全部だった気もする。
その後、何度か経験を重ねてわかってきたのは、「いい質問」は相手の中にある“語られていない言葉”を引き出すための装置だということ。最近、印象に残っているエピソードがある。あるインタビューで、「活躍する社員って、どんな特徴がありますか?」と聞いたときには、散々思案した後に「主体性がある人ですね」と、どこかテンプレートのような答えを返してきた。
でも次に、「逆に、活躍しない社員って正直どんなところがダメだと思いますか?」と尋ねたとたん、表情が変わり、「取引先の話を表面的になぞって、横に流すだけの人って、やっぱり信用されないんですよ」等、具体的なエピソードをもとにした生々しい話をしてくれた。途端に語られる内容の粒度が変わったなと感じた。経験に裏打ちされた言葉の重み。これが“湿度”なんだと思った。
問いの構造ひとつで、これだけ相手の語りが変わる。つまり、質問は“答えを引き出す技術”ではなく、“答えやすくなる文脈をつくる技術”でもあるということ。表面的な問いではなく、相手の感情や経験を想像した湿度のある問いをして本音を引き出す。そこに、自分なりの仮説や関心がにじんでいるかどうかが重要なんだと感じ、そこまで含めて“質問力”なのだと、最近ようやく腹落ちしてきた。
湿度のある問いと、自分事の資料づくり
この“湿っぽさ”をどう生かしていくか”これはインタビューやヒアリングだけでなく、資料をつくるときにも似たようなことが言える。
最近、マネージャーに言われて印象的だったのが、「資料を作るとき、よく“自分だったらどう思うか””自分だったらやりたいと思うか”って考えてる」という言葉だった。ロジックで物事を詰めることこそがコンサルの真髄であると感じていたにとっては、どこか感覚的で恣意性が入りかねない姿勢に思えて、最初は驚いた。でも、よく考えれば、これはまさに“湿度のある問い”と通じるものだ。
“もし自分がこの資料を見る立場だったら、どこが引っかかるか””どんな表現だったら、グッと来るか”そうやって自分事として考えることで、資料の表現や構造に熱が生まれる。ロジカルに構造を整えるだけではなく、どこまで“生々しさ”を載せられるか。問いに”湿度”が必要なように、資料にも“体温”が求められているのだと思う。
湿度を恐れず、問い続けること
“もちろん、今の自分にとって“いい質問”を瞬時に繰り出すのは簡単じゃない。まだまだ言葉のチューニングも甘いし、相手の温度に乗せきれないことも多い。
でも、インタビューや資料作成のなかで、「どう聞けば、どう書けば、相手の思考を動かせるか」を考えることは、自分が成長するためのトレーニングにもなっている。
問いは、空気を変える。そして、問いは、自分自身の視点も変えてくれる。
だからこそ、これからも“湿度のある問い”を、恐れず投げかけていきたい。
MAVIS PARTNERS アナリスト 定永悠樹