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時代が変われば人材に求めることも変わる

M&A戦略 MAVIS PARTNERS コラム71

時代遅れの人材が組織の成長を阻害しているのではないか

「昔はできていたことも、最近の若い社員はできないことが多い。人材のレベルが落ちていることも、我々の会社の業績が伸び悩んでいる要因のひとつなのではないか。」
以前、クライアントからこのような趣旨の発言を聞き、ある違和感を覚えた。それは、昔求められていたことを今の社員にも求めているという姿勢に対する違和感だった。
時代の潮流とともに、戦略やガバナンス体制など様々な要素で組織のあるべき姿は大きく変わってきた。その中で、社員に求められるスキルにも大きな変化が生じている。その変化をしっかりと考慮して、人材のあり方を検討しないと、時代遅れな組織が出来上がってしまい、企業の競争力を落とす結果を招いてしまうのではないかと思っている。

世の中の平均的なリテラシーは向上している

人材に求められるスキルが変化している要因として、(分野にもよるが)世の中の平均的なリテラシーが向上していることがあると思う。例えば、統計学はその最たるものではないだろうか。10年前であれば、世の中の大半の人は、「正規分布」と聞いても何のことか分からない人が多かったと思うが、近年のAIブーム等も影響して、最近では特に大学等で統計を専攻していなかった人でも、統計学の基礎的な知識を持っていることが多くなったのではないかと感じている。さらに数年前からは、高校数学B(文系でも学ぶもの)の内容に「統計的な推測」が追加された。
それでも、統計学の知識をマーケティング戦略等に十分活かすことができている企業は多くないのではないかと感じる。

質の低い分析、そしてそれを指摘できる人もいない

以前支援していたとあるクライアントの話だが、その企業ではマーケティング部門が中心となって市場分析を行い、営業部門を始めとした社内各部署に報告していた。しかし、(曲がりなりにも確率論・統計学を大学・大学院で専攻していた身からすると)その分析方法・結果はかなり浅く、本質を突いたものでは無いように感じた。もちろん、コンサルタントという立場上、分析の仕方に関しては、助言を行ったが、統計的な知識を身に着けた社員がほとんどいないため、出来る分析の範囲も限られているというのが現実だった。また、営業部門等マーケティング部門以外の人達は、さらに数値分析のスキルが低いため、分析方法や結果に対して指摘が出来る人もいない。このような状態では、あらゆるデータの取得・分析が容易になっている現代において、他社に遅れを取ってしまう可能性は非常に高いと感じた。

専門的な知識まで求めなければスキルの習得は可能

たしかに、多忙な社会人にとって、統計学やITといったいわゆる理数系色の強いスキルを身につけることに抵抗を覚えることは確かだが、統計学やITのスキルを向上させることで経営意思決定の質や、業務効率を向上させた事例は存在する。
有名なものとして、作業服を中心に販売するワークマンの事例がある。ワークマンは、社員の統計分析スキルを向上し、立地戦略等の精度が向上したことによって、飛躍的な成長を遂げたと言われている。しかし、ワークマン社員が身につけた分析スキルの内容を見ていくと、実はそこまで高度な分析を行っているわけでは無いことが分かる(ワークマンの成功事例は複数の書籍・記事で紹介されている)。エクセルを使った簡単な分析のみで、数学的な知識や統計言語の理解までは追求しなかったのである。きっと、このレベルであれば、実践できる企業は多いのではないかと思った。

人材の持つスキル・ノウハウの刷新はM&A後のガバナンスにも影響するのではないか

国内外問わず、データ分析を得意とする企業のM&Aが増えてきている。買収先企業の持っているノウハウに関して、買収する側の企業が必ずしも完全に理解している必要は無いものの、グループ会社ガバナンスという観点から見ると、被買収企業の事業内容の理解度は重要になる。DXやAI関連のM&Aが増えていることを踏まえると、M&Aという文脈の中でも、人材の持つスキル・ノウハウの臨機応変な刷新・改善は、以前よりも求められているのではないだろうかと感じた。

MAVIS PARTNERS アソシエイト 井田倫宏