1.アナリスト
印刷結論ファーストならぬ、“余白ファースト“
2025-10-24

当たり前に言われている結論ファーストという概念
「まず結論から言って」
仕事の際に、(もしくはそれ以外の状況でも)、このように言われることがあると思う。
多忙な上司や意思決定者の時間を奪わないために、最初に“着地点”を提示するのは合理的で、たしかにプロの作法とも言える。僕自身も、そう教わって育ってきたし、それを否定するつもりもない。
ただ最近、「それだけでいいのか?」と感じる場面も多い。なぜなら、結論ファーストが適していない場面に遭遇することもしばしばあるからだ。特に、クライアントとの密な対話や、組織に深く踏み込むようなプロジェクトの現場では、それを感じる。
問いから入る“余白ファースト”という視点
結論ファーストは言い換えると、まずは“答え”を提示するアプローチと言える。
それに対して余白ファーストは、“問い”や“観察”を起点にしながら、対話を通じて答えを形づくっていくスタイルだ。
たとえば、「最近、現場でこんな声を聞きました」「この背景って、どう理解されていますか?」「自分としてはこう見えているのですが、どう思いますか?」といった問いかけから始めると、相手が“自分の言葉”で考え始めてくれる。そこに沈黙があっても、焦らずその余白を信じて待つことで、相手の思考が動き始める。そのプロセスこそが、対話の価値だと思う。
さらに言えば、この“余白ファースト”の問いは、相手に「あなたの見方を大事にしたい」というメッセージを同時に伝えている。だからこそ、形式的な質問ではなく、その場に合った“リアルな問い”を発することが大切になる。
そのうえで、こちらの視点や仮説を丁寧に重ねていくと、「言われたこと」ではなく「一緒に考えたこと」になる。
単なる情報提供でも、結論の押しつけでもない、相互の納得を伴う合意形成につながる手応えがある。
「沈黙を待てない自分」との向き合い
ただ余白を生み出すのも簡単ではない。
たとえば、自分がクライアントに問いかけをしたとき。返事がすぐ返ってこないと、「補足しましょうか?」「ちなみにこういう話なんですけどね」と、つい畳みかけてしまう。
でも、それって実は、相手が思考を始めた“余白”を、自分の不安で潰してしまっているのだと思う。
思い出すのは、以前代表の田中に言われた言葉だ。
「相手の質問にすぐ反応するな。小物感が出るぞ」
クライアントとの対話する機会が増えるほど、今はその意味がわかる気がする。
沈黙に耐える力は、余白を尊重する姿勢そのものだ。
こちらが沈黙を怖がらなければ、相手はその時間で考えを深められる。
それによって、その人なりの言葉や温度が乗った答えが返ってくる。
思考の余白を、待てるかどうか。
それは、問いを投げかける側の胆力が試される瞬間でもある。
思考の余白に宿るもの
相手が黙っている時。かつては、ただの「気まずい間」だとしか思っていなかった。
けれど今は、その沈黙の時間に“思考の手触り”が詰まっているように感じる。
目の前で、誰かが考え始めている。言葉を探している。
その時間は、発言よりも多くの情報を含んでいるのかもしれない。
相手が何に迷い、どこに引っかかっているかが、表情や間の取り方ににじみ出てくる。
そんな時間に立ち会えることこそ、対話の醍醐味かもしれない。
結論をすぐ伝えることが悪いわけじゃない。
だが、それと同じくらい、余白を与え、相手に考えさせる時間を作ることも、プロの技術だと思う。
結論ファーストという“強さ”に加えて、余白を待てる“しなやかさ”を持っていたい。
問いを投げかけたその先の沈黙を、意味ある時間として引き受けられるか。
その構えひとつで、対話の質はまるで変わってくる。問いの力を信じて、相手とともに考えられる人間でありたい。
そんなことを、最近あらためて思っている。
MAVIS PARTNERS アナリスト 定永悠樹








