1.アナリスト
印刷「聴く力」の重要性
2025-07-04

相手の話を「聴く」ことができていなかった失敗
一般的に、コミュニケーション能力とは「話す力」や「伝える力」のことであると考える人が多いのではないだろうか。しかし、ビジネスの現場や日常生活で最も重要なことは、実は「聴く力」ではないかと考えている。
かく言う私自身、この「聴く力」の重要性に気づかず、過去に痛い失敗を繰り返してきた。つい最近まで、私は自分が正しいと考える意見を主張することこそが自らの提供価値であり、相手もそれを喜んでくれると本気で思っていたのである。
良かれと思い、ミーティングの中で一方的に「それはこうすべきではないか」と熱弁を振るうこともしばしばであった。しかし、結果は惨憺たるもので、相手喜んでくれるどころか、逆に反感を抱かれることが多かった。
当時の私は、相手の話を聴いているようで、全く聴くことができていなかった。相手が話している間も、頭の中では自分が話すことばかり考えていたのである。これでは相手に信頼されるはずがない。
「聴き方」で変わる相手の心理状態
では、私の話を聞いていた相手は、一体何を感じていたのであろうか。聞き手の態度は、話し手の心理に絶大な影響を与える。
話を遮られたり、安易なアドバイスをされたりすると、話し手は「この人に話しても無駄だ」「どうせ否定される」という不信感や警戒心を抱いてしまう。そうなれば、仮にこちらがどれだけ正論を述べていたとしても、相手の心には届かない。
一方で、真剣に受け止めてもらえると、話し手は「この人なら大丈夫だ」という安心感を抱く。
私自身、話し手側で傾聴してもらえると、話しながら自分の考えが整理され、自分でも気づかなかった本心や解決策に自らたどり着くことがある。これは「話す」という行為を通じた自己発見のプロセスであり、聞き手への深い信頼関係が生まれる瞬間でもある。
「聴いてもらえていない」と感じる時、人の心は閉じていき、「聴いてもらえている」と感じる時、人の心は開かれるのである。
相手の話を「聴く」ための方法
とはいえ、言うは易く行うは難しである。長年染み付いた「話したい」という私の癖は、意識するだけではなかなか治らなかった。そこで私は、半ば強制的に自分の思考をコントロールするため、相手の話を手元でメモしながら聴く、というシンプルな解決策を取り入れた。
手を動かして言葉を書き写す作業に集中すると、必然的に頭の中で自分の話したいことを考える余裕がなくなる。これは、私の思考を「聴く」ことに専念させるための、いわば強制ギプスのようなものであった。これにより、少しずつ私の悪癖が改善していることを実感している。
「聴く力」とは、相手が喜ぶことを理解し、相手の役に立つために必要な力
メモを取る矯正法を続け、少しずつ相手の話を「聴く」ことが少しずつできるようになってきた際に、弊社代表の田中から「先意承問」という言葉を教えてもらった。
「先意承問」とは「先ず相手の気持ちを察してその望みを受け取り、相手のために、何ができるのかを自分自身に問いただす」という意味である。まさに「聴く力」の意味は、この言葉に集約されている。
つまり、「聴く力」とは、単に受動的に話を受け止めるスキルではなく、相手の言葉の断片から、その人が本当に望んでいること、何をすれば喜んでくれるのか、どうすれば役に立てるのかを能動的に理解しようとするスタンスから発揮される力なのである。
もちろん「話す力」も重要ではあるが、まず相手を深く理解し、その役に立ちたいと願い、そのために「聴く」こと。それこそが、コンサルタントとしてビジネスパーソンとして必要不可欠なスタンスであり、スキルであると考えている。
MAVIS PARTNERS アナリスト 西井建人