1.アナリスト

印刷

“かわいい子”ほど旅をさせよ

2025-04-25

“かわいい子”ほど旅をさせよ

旅で相対化される日常

いま世間はGW真っ盛り。高速の渋滞情報と映え写真がタイムラインを埋め尽くし、旅好きの指先はムズムズしている。今回は予定が組めず歯がゆいが、学生時代の自分は衝動だけで走った。眠れぬ深夜、原チャリを飛ばして淡路島へ、航空券の安さだけを頼りにホテルも取らずマカオと香港をハシゴした。なぜそこまで旅に惹かれるのか。それは旅が日常を相対化する方法であるからだ。異なる通貨の重み、得体の知れない香辛料の匂い、見慣れない標識に遭遇するたび、当たり前と思い込んでいた常識に小さなヒビが入り「本当に今までの生活が当たり前でいいのか?」と問いを立て直す余白が広がる。旅は静かな池に投げ込む石。波紋が頭の凝りをほぐし、帰路の車窓すら新鮮に映し直してくれる。 旅を行うだけで、日々繰り返す営みにに小さな問いを芽生えさせることができる。異なる通貨や食べ慣れない味に触れる体験は、帰宅後もしばらく尾を引き、職場のルールや自分の習慣を静かに見直すきっかけになる。連休のたびに多くの人が移動を企てるのは、観光そのものよりも “問い” を仕入れに行く営みなのかもしれない。

旅の機能とコンサルタントの機能は似ている?

旅が“日常に問いを立てる装置”だとすれば、コンサルティングはその装置を企業へ持ち込む仕事と言える。クライアントは自社の慣習を空気のように吸い込み、疑問を抱きにくくなる。旅行に出ない人が自宅半径五キロを世界の中心と感じるように、内部論理だけを信じれば改善の芽は育たない。そこでコンサルタントは外部の視点というパスポートを掲げ、業界統計や他社事例という異国の通貨を差し出しながら「それ、本当に最適ですか?」と関所を設ける。企業を安全地帯から連れ出し、発見の余白までウォーキングさせるガイド役だ。同時に地図アプリが現地の通行止めに弱いように、机上の分析は現場の慣性にぶつかって剥がれることがある。だから数字を片手に現場を歩き、迂回路を描き直す。旅が体感を伴ってこそ意味を持つように、提案も温度を帯びて初めて腹落ちする。 逆に言えば、旅に出ない組織ほど問いの筋肉が萎えやすい。いま享受している成果こそがベストだと信じ、変革を先送りしがちだ。だからこそコンサルタントは、行き先未定の旅券を差し出すように、未知への想像力を促す。新しい景色を見た瞬間、停滞の霧は意外なほど薄くなる。たとえ一歩目が小さくても、外の空気を吸った組織はもう元の座標には戻れない。

コンサルタントの仕事はクライアントと“旅”をすること

結局のところ、コンサルタントの醍醐味はクライアントと肩を並べて“思考の旅”へ出ることだ。羅針盤を預けてくれた船長に奉仕し、まだ見ぬ先へと導く。クライアントが大事な相手であるからこそ、もやもやした悩みを晴らすために、安全地帯から抜け出し、外の世界へと連れ出さねばならない。複雑な問題に目が眩まされるときもあるが、その中を懸命に考え抜いてこそもたらされる価値がある。一方で、旅がもたらすのは”改善点”だけではない。外の世界を覗いた後で振り返ると、自社の強みや美点がクリアに浮かび上がることがある。長旅から帰宅した夜、いつものベッドが雲のように柔らかく感じるあの瞬間のように――相対化は“残す宝”と“手放す荷物”を選り分ける手段になる。そして旅路を共にするうち、自身のコンパスも研ぎ直される。問いを投げる相手が変われば潮流も変わり、得た方法論は次のプロジェクトで再生産される。コンサルタントという職業そのものが終わりなきバックパッキングだ。荷を軽くし、視界を開き、また未知へ漕ぎ出す。その循環こそが、コンサルタントとしての土壌を豊かにしてくれる。そうやって、旅路を乗り切った時にクライアントと分かち合う乾杯こそ、コンサルタントにとっての最大の達成感となる。これからも、大事なパートナーとともに”旅”に出かけていきたいと思う。

MAVIS PARTNERS アナリスト 定永悠樹

Contact

お気軽にお問い合わせください

お問い合わせフォーム