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「何かを伝える」という意味でコンサルタントはアーティストと同じ

M&A戦略 MAVIS PARTNERS コラム9

アーティストの目的は歌うこと、踊ることにあらず

先日、とあるオーディション番組を見ていた。

そのオーディション番組は、ある有名な音楽プロデューサーが、自身がプロデュースするアーティストを直接選抜していく過程を描いた番組である。この番組の見どころの一つが、音楽プロデューサーがアーティストを夢見る候補者たちに的確かつ辛辣な評価を下すシーンなのだが、ある候補者のパフォーマンスに対してこんなコメントをしていた。

「XXさん、あなたはプロのダンサーのようだ。ですがこれは誉め言葉ではありません。」

「アーティストはダンサーのように見えてはいけません。」

「アーティストは、何かを伝えるためにダンスを使ってオーディエンスとコミュニケーションを取っている。コミュニケーションをとる手段は、ダンスでなくてもよい。歌やしぐさ、表情でも良い。」

「XXさんは、私のダンスを見てくれ!とでも言わんばかりに踊っていて、見ている人とコミュニケーションを取ろうとしていない」

ダンサーとアーティストの定義は人それぞれだろうし、ダンサーが好き勝手に踊っている人だとは思っていないが、アーティストとダンサーを「ダンスを通じて何かを伝える人」と「ダンス自体が目的になっている人」に区別したこの発言は、私にとっては考えさせられる発言であった。

無意識のうちに“ダンサー”になってはしないか?

先ほどの発言を聞いたとき、内心ドキッとしてしまった。歌やダンス、しぐさや表情を、パワポやエクセル、プレゼンの仕方や口調に置き換えた時に、コンサルタントに対するフィードバックとしても成り立つからだ。そう思うと、先ほどのフィードバックはまるで私に言われているように感じたのだ。

果たして私は、クライアントに何を伝え、どう行動してほしいのか、どのような感動を与えたいのか、徹底的に考え抜いているだろうか?彼女のように、きれいな分析結果をお披露目する“ダンサー”になってはいないだろうか?知らず知らずの間に、資料作成自体が目的になってはいないだろうか?あるいは、PJメンバーに対して資料作成を依頼する時に、単純な作業の割り振りになってはいないだろうか?クライアントに何を伝えたいか、目的をメンバーと共有出来ているだろうか?

もちろん、上記のようなことは仕事をする上で最初に考えることである。しかし、見た目がキレイなアウトプットや精緻な分析が出来てしまうと、無意識のうちに「私が作成した資料すごいだろ!見てくれ!」という“ダンサー”になっているかもしれないと感じたのである。

コンサルタントたるものアーティストたれ

もちろん、“ダンサー”にも“ダンサー”なりの価値はある。資料をきれいにわかりやすくまとめるのも一つの価値ではあるが、それだけではいわゆる作業代替でしかなく、クライアントに与える価値には限界がある。コンサルタントの仕事は資料を作成することではなく、クライアントから得る情報や公開情報、自分の足で稼いだ情報など様々な情報を自分の中で咀嚼して、クライアントに対して価値ある何かを伝える仕事である。それは、「何かを伝える」という点でアーティストと同じだ。アーティストが何かを伝えるために、美しいダンスを踊るように、コンサルタントも何かを伝えるために美しい資料を作成することはあるが、どちらも何かを伝えるツールでしかない。これは言われてみれば当たり前なのだが、“アーティスト”という一言で表現すると、非常にしっくりきた。

自分は今、“ダンサー”になってはいないか?アーティストであることを意識できているだろうか?常に自問しながら、クライアントと接していきたい。

MAVIS PARTNERS アソシエイト 渡邊悠太