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Greed is GOODはもう古い?

M&A戦略 MAVIS PARTNERS コラム91

株主資本主義の正当性を象徴する“Greed is good”

みなさまは“Greed is good“というフレーズを聞いたことがあるだろうか?かなり有名なフレーズなのでご存じの方には既知の情報であると思うが、1987年公開の「ウォール街」という映画でマイケル・ダグラス演じる投資家(今で言うアクティビスト)のゴードン・ゲッコーが買収を仕掛けていた製紙会社の株主総会で放った名台詞である。気になる方は是非該当箇所だけでもいいのでご覧いただきたいと思うが、彼のスピーチを要約すると、「欲望こそが社会を機能させており、人類の成長の糧である。株主として利益を追求する姿勢は悪いことではなく、正しいことで、その会社だけではなく国の発展にもつながるのだ」というような内容だ。私は新卒で入社した会社が証券会社だったということもあり、初めて聞いた時には非常に衝撃を受けて、記憶に深く刻まれた。しかし今考えてみるとこれこそ、当時株主資本主義が当たり前だったことを示しているように感じる。仮に今、株主総会で似たような発言をしようものなら「欲望を追求し続けることがサステナブルと言えるのか!」とか「環境に与える影響はどう軽減するのか!」とバッシングされてゴードン・ゲッコーのように称賛されることはないのではないだろうか。パーパス経営の第一人者として知られる一橋大学の名和教授は「人には2つの側面がある。ダークサイドとブライトサイド。ダークサイドは欲望にまみれている。果てしない欲望が続くと地球が破綻してしまう。だから欲望ではなく大志を持った”志本主義“が大事なのだ」と言っている。

改めて、なぜ今パーパス経営が注目されているのか?

さて、パーパス経営という言葉がバズワードになって久しいが、改めて、なぜここまで注目されているのだろうか。実は、パーパスという言葉に注目が集まった時期は2期間あり、1回目は2007~2009年、2回目は2020~2021年である。前者はリーマンショック、そして後者はコロナショックがあった時期と重なっている。世界的に大きなショックがあった時に、改めて「自分たちは何のために存在しているのか?」というそもそも論に注目が集まるのだろう。また2019年半ばに、アメリカのビジネスラウンドテーブルという経済同友会のような組織が、「株主利益も尊重するが、それは5番目で、顧客・従業員・取引先・地域社会の利益がその先に立つ」というような宣言をしたことも、昨今パーパスが注目を集めている背景にある。
これだけ注目を集めているパーパス経営だが、実践することでどのようなメリットがあるのだろうか。短期的には、パーパスに共感してくれた消費者の商品・サービスの利用が増加し、消費者の間で拡散されてマーケティングコストも低減するとか、無駄な生産が抑制できるので製造コストが抑えられると言われている。また、人件費も大幅に下がるとも言われており、パーパスを理解し納得している従業員の生産性はそうではない社員の3倍にもなるという研究結果もあるらしい。長期的には、従業員がパーパスに則した適切な行動をとることによるレピュテーションリスクの軽減や、ブランドやネットワークと言った無形資産の増加による企業価値の上昇にも注目されている。

パーパス経営を実践する上で重要なこと

いいことずくめのパーパスだが、きちんと策定し実践していくため重要なことは2つある。1つ目は“見せかけのパーパス”にならないようにしなければならないということだ。見せかけのパーパスとは既存事業を包括するような耳触りの良い抽象的なメッセージのことだ。ある専門家に言わせると、ほとんどの企業は見せかけのパーパスになっているらしい。自社のパーパスが何かしらの判断の指針になっていないのであれば、それは見せかけのパーパスかもしれない。見せかけのパーパスにならないためには、自社のビジネスを見直して、社会にとって有害な部分があるとしたら、それでも存在している理由は何なのか、という自問自答を続けるしかない。2つ目は、パーパスをしっかり社内に浸透させるという点だ。パーパスを自分事化してもらうために、自社の存在意義をワークショップ形式で話し合うということを実行している会社は多いと思うが、さらに先進的な企業ではパーパス1on1というものを実践して、会社のパーパスを落とし込んだ自分のパーパス(マイパーパス)について話し合うというようなことをやっているそうだ。皆様の会社でも見せかけのパーパスになっていないか、社員の浸透度はどの程度か、確認する必要があるかもしれない。

MAVIS PARTNERS マネージャー 渡邊悠太